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::02.19   comment (0)
久しぶりに瀬戸内書こう!ってなったから書いて見たけどどう落とすか全く決まらない。
困りましたねえ。
ということで、続きにしばらく放置しようと思います。
二代目のれっといっとごーが好きすぎてもう、というあれです。
あれはどうきいても毛利にフられた長曾我部そんぐ!!





帰宅ラッシュの電車の中から押し出されるようにしてホームへ降りた長曾我部の視界の隅に、強い風に煽られる栗色の短い髪が映る。
弾かれたように振り返った長曾我部の視線の先で、見たことのない可愛らしい顔が隣に立つ男に笑いかけていた。
それに安堵と落胆の入り交じった白い息を吐き出した長曾我部はエスカレーターへと足を踏み出す。
長曾我部の記憶の中で目を伏せた栗色の髪の持ち主はポロシャツの袖からその細い腕を覗かせていた。
早い初雪が街を彩ったのはもう随分と前のことで、今は強い風の冷たさも日中は緩む。
彼が長曾我部の人生から姿を消してどれくらいの時が経ったのか。半年前の夏だったのか、それとも季節が一周半回ってしまったのか。
もう思い出せないほど昔のことのようでもあり、つい昨日のことのようでもある。
いかに自分が流れる時間に身を任せて生きているのかを思い知らされたような気がして改札を抜けながら苦笑する。
駅前のケーキ屋は、彼がまだいた時と同じように彼が好きだったショートケーキをショーウィンドウに並べている。
残業で遅くなった日に決まったように買って帰ったことは覚えているが、その時に彼がどんな顔で自分を出迎えたのかはもう思い出せなくなってしまった。
ただ、『遅い』と不機嫌な声が長曾我部を出迎えることはもう二度とないことだけは確かで、いずれ帰ってくるだろうという淡い期待さえ抱かせない方法で彼が姿を消したことだけが残った事実だった。
反対方向の電車で帰ってくる彼が、長曾我部に気付かれるようにすぐ脇を追い抜いていくことも、改札の前の売店で改札を抜ける彼を待つことももう二度とない。
もう塞がっていてもおかしくない心の傷がじんわりと疼いた。
足早に辿り着いた部屋の鍵を開けて、暗い室内に絶望する。
そんなことさえも日常に組み込まれていることに、バカな長曾我部は気付かない。
ただいまを言わなくなったのは、いつからだっただろう。
ひとりで暮らすには金のかかりすぎる広い部屋でも、長曾我部がここを出て行けないのはやはり、心のどこかで彼が戻ってくることを期待しているからなのかもしれない。
捨てられないダブルベッドがほとんどを占める寝室のクローゼットに脱いだコートとジャケットを片付けて、ワイシャツが皺になるのも構わずベッドに倒れ込む。
ズボンのポケットの中で重たい携帯電話を引き摺り出し、消せない番号を見つめる横顔に寂寞が影を落とす。
繋がらないと知りながらダイヤルする。
番号をお確かめの上、と機械的な声がアナウンスするのを聞いて通話を切った。
今でもこんなに大切で、今すぐ手の中に戻したいと願うほど彼を想っているのに、徐々に思い出せなくなるのが、本当の喪失のようで恐ろしかった。
あの日、部屋を出た彼は泣いていただろうか。
ゆっくりと寝返りを打った長曾我部の視界にチェストの上に置かれた便箋と一組のペアリングが入る。
絶望に疲弊した腕を伸ばして便箋を取り上げる。
そこに残された最初で最後の感謝の言葉が重たく澱む空気を更に重たくした。
愛想はなかったが、いつでも長曾我部を想ってくれているのはわかっていた。
照れ隠しに言葉がきつくなるあまのじゃくで、本当はひとりで眠れないくらい寂しがりな彼を甘やかして抱き締めてやるのが好きだった。
人一倍傷付きやすいくせに、その傷を隠すのも人一倍うまいことを、知っていたのに。
「どうすりゃいいんだよ…」
忘れることも思い出に変えることも出来ないまま、長曾我部だけがひとりここに取り残されている。
海外転勤の決まった彼に言った酷い言葉がふたりの絆を千切ったのはわかっている。
詫びる言葉も、甘やかす態度も、もう一度を請う覚悟も。
全て用意できているのに、千切れてしまった絆だけが戻せないでいる。
この部屋を出た日、彼は栄転の決まっていた会社を辞めていた。
同僚も、同級生も、誰もが彼の行き先を知らなかった。
実家に戻ったのかとも思ったが、それを確かめる術は長曾我部にはなかった。
そこまでして別れたかったのかと初めの頃は苛立ちもしたが、考えれば考えるほど彼を追いつめた自分の言葉だけが胸に刺さる。
今だからわかる自分の横暴も、ただの後悔だ。
もうどう足掻いても彼とふたりで過ごした時間には戻れないのだと現実がせせら笑う。
全てがもう遅い。
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