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::11.22
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おはようございます。外は5センチの積雪ですが皆様いかがお過ごしですか。
うちは基本的にスタッドレスがなくても大丈夫ですが今朝はさすがに相方さんに事故ったらコロスと言って送り出しました。
この間言ってた頭のネジがゆるい残念な佐助の話を考えていたはずが、最後は結局そんな佐助が可愛くて仕方が無い小十郎さんの話になってしまいました。大変遺憾におもいます。
うっかりネカヘに引きこもる時間もないので、とりあえずここに更新しようかなと思ったのでそうします。
頭が悪くて残念なのは私でしたてへぺろ!
やっぱりなんて言うかこじゅさすは書いてて一番楽しいなぁと思いました!
いちおうホスト設定で、めっさ長いです。書いた本人も驚きの長さでした。削れるとこ削ろうと思ったけど無理でした\(^o^)/
続きで読めますです。
アフター帰りのタクシーを降りた佐助は、ポケットの中からキーケースを探し当てる。キーケースに収まった鍵は4本。傷だらけになった自宅の鍵と、バイクの鍵が2本、そして傷一つない小十郎の部屋の鍵だ。自宅の鍵を出し、玄関の扉の前に置かれたクリーニング屋の袋を抱えて部屋に入った。
昼近くの陽光に温められた生ぬるく狭い部屋は、相変わらず雑然としている。3日ぶりの室内は埃っぽく、佐助はコートを着たまま窓を開けた。冬の静謐な空気が一気に流れ込み、佐助は窓のサッシに手をかけたままズルズルと座り込む。何をしているんだ、と最近よく考える言葉が胸郭で吐き出されることなく澱んだ。
佐助がこの部屋に住むようになったのは、専門学校へ入学した時だった。昼は中小企業の事務をしながら、夜は週に何度かスナックで働いて女手一つで育ててくれた母は、美容師になりたいと訴えた佐助に文句一つ言わずに受験料と入学金を工面してくれた。奨学金を申請し、母が捻出してくれる家賃と、居酒屋のアルバイトで得た生活費で過ごした2年間は悪いものではなかった。無事に国家資格を取り、美容院で働き始めた時も、薄給ながらそれなりに楽しい毎日を送っていた。
その毎日が崩壊したのは、田舎に残してきた母が倒れた日だった。店を早退し、飛び乗った特急で地元へ戻り、病室で眠る母のやつれて荒れた指先を握った時に、佐助は自分の生活の意味に気づいた。佐助が働くようになってからも、母は将来のために貯金しろと言って家賃を払い続けてくれていた。佐助は浮いた家賃の中から奨学金を返済し、残った分は全て貯金した。しかし、本来ならば家賃を断るか、実家へ帰るべきだったのだ。そう、思い知った。
母の病状は悪く、右半身に麻痺が残った。ひとりで暮らす母には入院以外の選択肢が与えられることはなかった。佐助が地元に戻り、一緒に暮らすにしても佐助のもらえる給料を考えるとそれも難しい。それなら少しでも給料のいい都会に残り、母が不自由しないようにいい病院にいれてやるのが親孝行だとも思った。
佐助は母に地元には戻らない事を告げ、その日のうちに一人で暮らす部屋へ戻った。美容師の薄給だけでは母の病院代など捻出できるわけもない。佐助は美容師の仕事の傍にできる仕事を探した。相談した上司は、佐助の腕を買っていた事もあってダブルワークを認めてくれた。佐助は佐助で美容師をやめずに済む仕事を探したが、そんなものがあるはずもなかった。コンビニの深夜、居酒屋、カラオケの受付。色々な職を転々としたが、どれも美容師との兼ね合いが難しく、体力も持たなかった。まともな睡眠時間さえ取れない。
毎月ギリギリの生活と確実にたまる疲労。もう限界だと思った。その度に脳裏に浮かぶのは荒れて年老いた母の指先だ。それを思い出して頑張り続けた。
そんな生活を一年半ほど続けた蒸し暑い夜、佐助はある男と出会う。
働いている繁華街の居酒屋の裏口から出た佐助は疲れた体を引きずるようにして駅の方へと向かっていた。薄く明けていく白い空をぼんやりと見上げて歩いていた佐助は、向かいから歩いてきた男の肩にぶつかり、盛大にしりもちをついた。夏のアスファルトは生ぬるく、それでいて冷ややかだった。立ち上がろうとした佐助の前に、磨き込まれた革靴が立ち、大きな手のひらが差し出された。すみません、とその手をとった佐助はギョッとした。差し出した手の持ち主はオールバックにした秀でた額の下で眼光鋭く佐助を見ていた。その左の頬に大きな傷があったからだ。
ヤがつく自由業の人かもしれない。佐助は立ち上がるのを辞め、その場に土下座した。
「あの!ほんとごめんなさい!俺ちゃんと前見てなくてその…ごめんなさい!許してください!!」
半ば叫ぶように謝る佐助を道ゆく酔っ払いが冷やかすように眺めては立ち去っていく。伏した佐助の頭上でため息が一つこぼれ、目の前の革靴がしゃがみこんだ。
「顔上げろ。」
「あの、ホント俺お金持ってなくてその、怪我とか…」
「おい、テメェなんか勘違いしてねえか?俺はヤクザじゃねえ。」
「…へ?」
とぼけた声をあげて佐助がようやく顔をあげる。目の前にしゃがみこんだ男は再び佐助に手を差し出した。佐助はその左手にお手よろしく右手を乗せた。その右手を握った男は佐助を引っ張りあげて立ち上がった。
「テメェこそ怪我はねえのか?」
「あ…大丈夫、です。」
「そうか、気を付けてな。」
ポンと佐助の肩を叩いて男は立ち去った。佐助はその背中を疲れと急な展開に回らない頭でぼんやりと見送り、自らも駅へと足を踏み出した。
そして、その一ヶ月後、佐助は美容師を辞めた。
カリ、と小さな音をたてて短い爪が小汚い板張りの床を掻く。俯せていた顔を上げ、ゆるく頭を振った佐助は自分が帰ってきたままの格好で床で眠っていたらしいことを認識した。床に押し付けていた右の頬が軋むのを奥歯を噛んでやり過ごし、床についたままの左手に力をいれて体を起こした。僅かに揺れる頭を軽く振って、左手で顔を撫でる。窓が開いたままの室内は寒かったが、コートを着たままの佐助は座り込んだままポケットの中をまさぐって煙草の箱を引き摺り出すと、一本を咥えた。箱を小さなローテブルに放り出し、唇の間に挟んだ煙草を意味もなく揺らした。
火をつけない煙草と唇の隙間で、懐かしい夢だったな、と呟いてライターを探す。コートのポケットから出てきた小十郎のものだったライターをそっと床に置き、続けてスーツのポケットを漁る。アフターの後に掴まされた数枚の札と一緒に出てきた水色の100円ライターで火を点ける。ゆるく立ち昇る細い煙が、窓からの風にかき消されては消えてゆくのを眺めていた。視界の端にシルバーのライターがちらつく。
思えば、あの時から俺は彼のことが好きだったんじゃないだろうか。その後再会することがあるとは思っていなかったからなんとも思わなかっただけで。
事実、面接で出向いた俺を迎えた彼を見たときに、俺は彼をすぐに思い出したじゃないか。それどころか、運命かもしれないなどと少し、いや盛大に浮かれたじゃないか。何かと世話を焼いてくれる彼を自分のものにしたいと、時を開けずに思ったのはそういうことじゃないのか?
会いたい。
床に丁寧に置いたライターを攫うように掴み、三分の一を灰にした煙草を咥えたまま佐助は立ち上がった。長くなった灰がぽとりと床に落ちたのも気にせず、佐助は玄関へ向かう。窓は相変わらず開いたままだった。
小十郎のことを思うと会いたくて仕方がなくなるのだ。アパートの廊下から、夕焼けの断末魔に照らされた摩天楼が濃い影になるのを見た。幸いにも、今日も二部での出勤だ。小十郎の部屋へ行き、一部の時間に合わせて出勤する小十郎を新妻よろしく見送ってからシャワーを借りて出勤前に家に寄って着替えればいい。急いたように錆びた古い階段を小走りに駆け下り、タクシーが拾える大通りまで弾むように駆ける。
愛されたい。愛されたい。愛されたい。彼にだけ愛されたい。俺だけを愛してほしい。望むのはそれだけだ。ワガママでも、欲張りではない。ああ、俺様ってすげえ謙虚。
乗り込んだタクシーに行き先を告げ、走り出した車内でつぶやく。組んだ足の爪先を焦るように揺らし、流れてゆく車窓を見つめる。シートの上に投げ出した細い指先は、トントンとシートを叩き、ずり下がった腕時計が輝き出したネオンを反射する。
小十郎のマンションが見える。我慢出来ずにタクシーを止め、小走りにエントランスへ向かう。押し慣れた暗証番号を押して、転がるように中へ入る。エレベーターを待つ間ももどかしく、革靴の爪先を鳴らしていた。
たどり着いた扉の前で佐助はいつもの様にインターフォンを押した。早く小十郎の顔が見たい。抱き付いたら怒られるだろうか。いや、多分殴られる。それでもいいから、早くこの邪魔な扉を開けてくれ。
(いつも自分で開けてるけど。)
しかし、待てど暮らせど鍵の開く気配はない。とうとう愛想を尽かされたのか。ぞわりと背筋を悪寒が走り、佐助は小さく肩を震わせた。震える指先でもう一度インターフォンを鳴らす。寒い。
やはり中から反応はなかった。
この扉を開けるために必要な鍵は持っているし、暗証番号も知っている。しかし、佐助がこの部屋の内側へ足を踏み入れるには小十郎の佐助を迎え入れる意思が揃わなくてはならないのだ。左腕の時計に目をやる。寝ている時間ではないし、出勤している時間でもない。拒まれているのだろうか。爪先から膝へ寒さが伝わり、スーツに包まれた小さな膝が震えた。
震えたままの指先で煙草の箱から新しい煙草を出し、口に咥えてライターを探す。さっき唯一見つけ出した100円ライターは部屋に置いてきてしまった。スーツの内ポケットに入れた小十郎のライターは使う気になれなかった。咥えた煙草の先をふらふらと揺らし、箱に片付けようと口から離してはまた咥えて揺らす。そのまま扉の前でぐるぐると円を描くように何周かまわり、再び扉と向き合うように立つ。左手で煙草を取り、右の指先をインターフォンへ伸ばす。これで出てこなければ諦めて帰ろう。もらったライターと時計を郵便受けに放り込んで。そして今日から店をばっくれよう。細い喉仏を上下させて口に溜まった唾液を飲み込み、佐助はインターフォンを押した。例え一瞬だったとしても、審判を待つ地獄の時間は長く、耐えきれなくなった佐助は再び煙草を咥えた。
吹き抜ける風の冷たさに佐助が眼を細めた直後、鍵が開く金属の音がした。冷たいドアノブに両手で縋り付くようにして扉を開ける。外より少しだけ暖かい室内に足を踏み込み、視線を上げる。寝巻き変わりのスウェットを履いた上半身裸の背中が居間の方へ消えていった。出なかったのはシャワーを浴びていたからなのだろう。それを理解して安心した佐助は、暫く呆けていたが、背後で扉が閉まる音で我に返り、慌てて靴を脱ぎ散らかして消えた背中を追う。長い廊下の途中で滑って足をもつれさせながらも、小十郎が煙草をふかして寛ぐソファの横に立った。新聞を開いて社会面を斜め読みしていた小十郎は、佐助の方を見ないまま口を開いた。
「3回も鳴らすなら入ってこい。」
「でも、」
言われた佐助はフィルターがふやけた煙草を右手で取り、言い淀んだ。拒まれるのが怖くて、自分で鍵を開けることが出来ずにいるなどと、言えるはずがなかった。おろしたままの小十郎の前髪から、逞しい胸元に雫が落ちる。それを見つめていた佐助は、むしゃぶりつきたい、と場違いなことを考えていた。
「何のために鍵渡してあると思ってんだ。」
「だって、」
「次からは一回で出なかったら勝手に開けて入ってこい。いいな。」
念を押すように小十郎の鋭い視線が長い前髪の隙間から佐助へ向けられる。カクカクとぎこちなく頷いた佐助は、コートを脱ぎ、三たび煙草を咥えて小十郎の前に跪くと、小十郎の煙草の先から火を移した。そのまま小十郎の足の間に背中を向けて座り込むと、小十郎の膝に頭を凭れさせた。ゆっくりと吸い込んだ煙を、またゆっくりと吐き出す。シャワーを浴びていたせいで高い小十郎の体温が、佐助の冷えたこめかみをじわりと温めていく。なぜか、佐助は少しだけ泣きそうになった。咥えたままの煙草から細く昇る煙を眺めて、蛍光灯の眩しさに目を細める。
小十郎は灰が長くなった煙草を佐助の顔の横に差し出しながら、それで、と言葉を紡いだ。
「何の用だ?」
「抱いてください。」
「…帰れ。今すぐに。」
受け取った煙草の灰を灰皿に落とし、佐助は返事と共にそれを待っている小十郎の指に返した。佐助から受け取ったそれを再び咥えた小十郎は、新聞を捲りながら言った。佐助はまだ長い煙草を灰皿に押し付けてから、小十郎を振り返る。新聞を取り上げてその膝の上に乗り上げた。
小十郎は何も言わずに佐助の好きにさせている。剥き出しの腹筋とスウェットのゴムの境目に左手をつき、右手で小十郎が咥える煙草を奪った佐助は、小十郎の吐息がかかるほど顔を近づけた。
「じゃあせめてキス。」
「どうしてそうなる。」
「そんなたまんねぇ格好してるアンタが悪い。ヤりたい。」
「テメェは人の顔見ると二言目にはそれだな。」
「アンタにしか言わない。絶対。神様に誓ってもいい。」
さらに顔を近づけた佐助は、小十郎の耳に囁くが、当の小十郎に顎を押されて引き剥がされる。佐助の指先に挟まる短い煙草から灰が落ちて小十郎の腹を汚した。
「俺以外に頼め。」
「アンタ意外の男なんて興味ない。」
「じゃあ女。」
「アンタが俺のこと愛してくれたら幸せすぎて死んじゃいそうだから、愛してくれとは言わないけど、いや、愛してほしいけど、抱いてもほしいけど、せめて傍に居させてよ。アンタが欲しくて欲しくて仕方ないけど、傍にいるだけで我慢するから。だからお願い、抱いてください。」
「言ってることが支離滅裂でワケがわかんねえ。」
裸の胸にピタリと張り付いてくる佐助のオレンジ色の頭を引き剥がそうとする小十郎の指先を器用に躱して、佐助は小十郎の胸に右耳をつけた。小さな心音と、小十郎の呼吸の音が鼓膜を揺らす。面倒になった小十郎は抵抗をやめてソファの背に頭を預けて天井を眺める。横目で確認した時計は、出勤時間まではまだ時間があることを示している。
「代表。」
「あ?」
「せめてフェラとか…」
「いっぺん死ぬか?」
「代表に抱かれてからじゃないと死ねない。」
頬を引きつらせて返事を返しながら、小十郎は小さくため息をついた。佐助の視界の死角で、小十郎の指先が握られる。わかってねえよ、と口の中で声にしないで呟いた小十郎は握りしめた指先を持ち上げて目頭を揉んだ。
佐助の相手をするのは、客の女を相手にするのとよく似ている、と思った。好きだ好きだと喚く割には、相手の感情、つまり小十郎のそれを汲もうとはしない。それが肯定もしくは拒絶だと決めつけて疑わない。佐助の場合は後者だ。
愛し愛されているというドラマのような幻想の恋愛に溺れるか、拒絶されてもなお愛し続けている健気な自分に酔っているか、そのどちらかなのだ。その勘違いなくしてはホストなどというふざけた商売は成り立たない。
相手が前者の場合、小十郎は相手が望むように偽りの愛情を惜しみなく注ぐ。そこにはもちろん体の関係も生じてくる。そして、後者の場合には徹底的に拒絶し、金だけを巻き上げる悪質な男を徹底的に演じてみせる。ホストやキャバ嬢と言うのは、客という演出家の望むように演技をする俳優のようなものだと小十郎は思っていた。それを従業員である佐助にほどこしてやる理由はいくらもない。
いくら佐助がよく稼ぐとは言っても、佐助の下に控えている男たちもそれなりなのだ。入店して半年後から不動のNo.3を維持し続けているとは言え、わざわざ家の鍵を渡してまで繋ぎ止めておきたい理由など、小十郎の個人的な事情でしかない。
口を開けばヤりたいだの抱けだのと下品なことばかり口走る。挙げ句の果てには抱いてくれないなら辞めるなどと喚き始める始末だ。そんな頭のネジがゆるゆるで、一本くらいはどこかで失くしてしまっているのではないかと心配になるような男でも、いないと落ち着かない。
小十郎がこの部屋に上げるのは佐助だけだった。酔っ払って帰れないと駄々をこねる佐助を面倒臭さにかまけて連れ帰ったのが始めだったが、その後も何かと理由をつけて佐助はここへ来たがった。一緒にタクシーで帰り、ソファとベッドで別々に眠り、交代でシャワーを浴びて一緒に夕食を食べて出勤する。それがいつからか佐助は押しかけてくるようになり、いちいち鍵を開けるのが面倒になり、鍵を渡すまでになった。
今思えば、ここへ入り浸った佐助の計画的な罠だったんじゃないかとさえ思う。
何年も一人で暮らし続けた部屋に、気が付けは佐助の面影が落ちている。それを見つけると実物がないことに戸惑う。それが気持ち悪くて、わざわざ接客の真似事をしている自分に、小十郎は気付いている。
だんだん冷えて来た体を一つ震わせて、着替えるために佐助を退けようとした小十郎は視線を落としてため息をつくと、脱力した頭を再びソファの背に載せた。静かになった佐助は、小十郎の胸にくっついたまま眠っていた。閉じた瞼を彩る長い睫毛が小十郎の厚い胸板に影を落とし、華奢な背中が規則正しく上下している。佐助が小十郎から奪った煙草は、佐助の細い指に挟まれたままフィルターの根元まで燃え尽きていた。その煙草をそっと取り上げて机の上の灰皿に投げ、佐助の上半身をソファの余ったところにそっと転がした。
んん、と小さく唸った佐助はしかし、目を覚ますことなく体を丸めてまた眠り始めた。膝の上に残ったしなやかな脚を自分が座っていた所に載せて自分はソファを降りる。寝室で新しいワイシャツを羽織り、居間に戻って佐助の寝顔を見ながら煙草に火を点ける。吐き出した煙に霞む視界の向こうに薄くクマの浮いた端正な顔が眠る。咥え煙草のまま佐助の長い睫毛とその下のクマを親指で撫で、その指先を頬骨の目立つ頬へ滑らせる。わずかに身じろいだ佐助は、その手のひらに猫のように擦り寄ってくる。苦笑いを浮かべた小十郎は、咥えた煙草と唇の隙間で、馬鹿野郎、と呟く。
「わかってねえよ、テメェは。」
眠る佐助を尻目に、身繕いを済ませた小十郎は電気を点けたまま部屋を出た。テーブルの上には佐助が間に合うようにセットした目覚ましを残して。
End
拒絶だと思っていれば、傷は浅くて済むんだ。
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