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::11.22
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明日はバレンタインですね!
特になにがあるわけではありませんが毎年ケーキは作ってるので今年も作るつもりでございます。
それより他にやることとか心労とかまあそういうアレがアレな感じのことが多いので毎年軽く流されていくバレンタイン
年度末のこのクソ忙しい時期にやってくるバレンタイン
そして年度末のさらにいそがしい時期すぎてスルーされるホワイトデー
そんなことにうつつを抜かしていられたのも学生時代までだったなとおもう今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしですか?
いろいろ長くてうざいのはスルーしてください
もうすぐ20000ひっとらしいんです。私も昨日まで知らなかったんです。
パソコン壊れてるのにこれどうしましょう…
でもせっかくだからお祭りしたいよね、私だけかね
私だけだね。うん。
とりあえず20000ヒットはフリーリクエストにしようと意気込んでいたんですが、更新も出来ないのにフリーもリクエストもアンケートもねえよボケカス、と言う感じであります
こんなわかりにくいとこで告知するのもどうなのって感じなので、近いうちにネカヘにいく時間を見つけたいと思います
なんか申し訳ない気分になったのでホストネタの続きなど放置して行きます
だからなんだと言う感じですが相変わらず小十郎と佐助がツンツンででれには程遠い感じなのがなんとも
友達の言葉を借りるなら「プライベートに仕事を持ち込むな」と言う感じですかね
いつかくっつけたいです。
客を送り終えた佐助はかすかな酔いにふわつく足で店の入り口をくぐる。トレンチにこれでもかと使用済みのグラスを乗せたボーイが足早にカウンターの前を抜けて厨房へ向かっていく。一部の営業が終わり、二部へと切り替わるこの時間が一番忙しいのだろう。普段は柔らかい表情の彼もどこか張り詰めている。何より今日はこのあとにミーティングがある。ミーティングとは言っても給料を手渡されるだけなのだが、ナンバーの発表もあるために店のホストが全員集まる。ホールは週末以上の賑わいだ。
カウンターで給料袋の封をしている小十郎を横目に空いている場所へと向かう。様々な香水とアルコールの匂いが立ち込めるそこは、有名ホストクラブの落ち着きを失っていた。浅ましい。
佐助はポケットから煙草の箱をテーブルに放り出し、売り上げと客の話でざわめく中で目を閉じた。高く組んだ膝の上で細い指先を揺らす。疲れていると思われたのだろう、誰も佐助に声をかけなかった。
ここ暫くは同伴とアフター続きでろくに眠っていない。目を閉じただけで眠れそうなほどの倦怠感が佐助を襲う。寝てしまうわけにはいかない佐助は重たい目蓋を薄く開いて、テーブルに放り出した煙草の箱を探り、抜き出した一本を咥えた。隣に座っていた下っ端がライターの火を差し出すのを手のひらで遮り、吸うわけじゃないよと再び目蓋を落とした。
今月はいくらまでいけるだろうか。同伴、アフター、2卓の被りは当たり前のこの生活の中で佐助が思うのはそれだけだ。もう過ぎてしまった先月の売り上げやナンバーなどどうでもいい。問題はまだ始まって半月の今月だ。煙草を挟んだ唇から溜め息が漏れた。月に何百万を落としていく客がいるわけでも、指名本数が多いわけでもない。客の懐事情と佐助の体力のバランスを取った結果が今までの売り上げだったのだ。それを増やすには佐助が2人になるか客がもっと払うかのいずれかしかないだろう。フリーの新規客の卓について指名を取ってくる自信も、その客をリピーターとして店に呼び込む自信もある。しかし、彼が求めるところへは、それだけでは到底届かない。今までの二倍の額を売り上げなくてはならないのだ。
無茶苦茶だ、もう。
唇に挟んでいた煙草を取り、溜め息をつきながら煙草を耳に挟む。
「ミーティング始めるぞ。」
カウンターから出て来た小十郎が束になった給料袋と書類をテーブルに無造作に置いてヘルプ椅子に座る。ざわめいていたホールが静かになり、小十郎がゆっくりと口を開いた。
「今月もご苦労さん。先月よりも今月はよく売り上げた奴が多かった。客との揉め事もいくつか聞いてるが、客が切れる前に必ず俺に相談しろ。テメェらのケツ拭ってやるのが俺の仕事だ。そのための代表の肩書きと幹部手当だ。」
ずらりと並ぶホストの顔を眺める小十郎の視線は鋭い。後ろの方で立っている新人の何人かが小さく頭を下げて同意を表すが、テーブルに陣取っているほとんどのホストはもう知っていることだとばかりに小十郎に視線を向けるだけだった。一通りホストの反応を見ていた小十郎の視線が、手元で煙草をいじくりまわしている佐助で止まる。テメェのことだ。舌に乗った言葉は舌打ちをする事で声にせずに飲み込んだ。
「あと、ヘルプで着く時はきちんと仕事をしろ。テーブルの上が汚ねえ。呑んで喋るだけがホストじゃねえぞ。」
まばらに返ってくる返事を聞きながら小十郎は引き寄せた書類を捲った。佐助は相変わらずいじくりまわしていた煙草を箱の中に戻し、また出してはいじくるを繰り返している。一週間ほどで随分と肉の削げた頬に落ちる影が暗い。
「このあと一部のやつらは来週のシフトを聞く。希望がある奴は更衣室に集合。ない奴は解散。二部の奴らは営業準備だ。」
書類から視線を上げた小十郎は胸のポケットからボールペンを出し、書類と共に目の前のテーブルに置くと給料袋の束を引き寄せた。
「今月のNo.1は政宗。売り上げ1800万。」
拍手に押されるように悠然とソファから立ち上がった政宗は分厚い封筒を受け取って書類にサインをする。ボールペンを置いた指先が給料袋の封を開けて中身を改めるのを佐助はぼんやりと眺めた。この店の給料は、売り上げが500万を超えると店との折半になる。そこから1割を厚生費と所得税として引かれたものが給料だ。大方800万が政宗の給料ということになる。それでどんな生活をしているかなど興味もないが自分はどうするだろうかと考えた佐助は、それでも今と変わりはしないだろうなと思う。遊ぶ友人や金がかかる恋人がいるわけではない。たまに客に飯を奢り、最低限の生活に金を払い、母親の病院代を出して残りは全て銀行に預ける。そうして貯まった金は使うことなく通帳の肥やしになるばかりである。
「No.2、元親。1500万。」
うい、と気の抜けた返事をする元親が給料袋を受け取り、書類にサインする間、佐助はあと500万、と口の中で呟いた。拍手の音の中でそれに気付く者はいなかった。小十郎に言われた言葉がこめかみを叩くように頭蓋の内側で響く。No.1と2000万プレイヤーの重みはよくよく理解している。No.1はともかく、2000万を売り上げるなど無茶な話だ。
「No.3佐助。1100万。」
のろのろと立ち上がりながら、佐助はドンピン25本分で元親かと溜め息をつく。毎日一本で間に合うか否かというところである。受け取った封筒は先月よりも分厚いが、喜びはない。無表情にサインして元いた場所に戻った佐助は封を開ける。帯のついた束が4本と、束になった万札が無造作に突っ込まれている。これだけあれば美容院を開業して美容師として生きていけるような気がしたが、小十郎を手に入れるまではそれでさえも佐助の興味を引かない。しかし、あの日、小十郎が佐助に突きつけたのは絶対的な拒絶だったとも思う。お前には無理だ、だから俺はお前には落ちない。そう言われたような気がした。がむしゃらに稼いで無理ではないことを証明したところで小十郎が佐助に落ちることなど万に一つもないということなのだろうが、諦めるわけにもいかない。もう引き返せないところまで来ていることはここしばらくで嫌というほどに思い知らされた。どう転ぶとしても、自分が売り上げを伸ばさないと事態は動かない。
給料を受け取ったホストが次々に消えていくホールがざわめきを取り戻す中で箱の横に置いたままになっていた煙草に火を点ける。大金が入った袋を傍らに放り出すように置いた佐助はぼんやりと煙を吐き出した。キャッチに出て行く者、更衣室へ戻る者、酔ってはしゃぐ者、皆それぞれだが彼らのうちの何人が小十郎を、政宗を越えようとしているだろう。一年以上変わらないNo.1に、誰が成り代わろうと思うだろう。
それでも、成り代わらねばならない。ひどいプレッシャーとわずかに残ったアルコールに酷いめまいがする。
佐助は唇に煙草を挟んだまま天井を仰いで目を閉じた。
「先月、がんばったじゃねえか。」
微かな嘲笑を含んだ声が佐助の頭上に降る。億劫そうに目を開けた佐助の視界にいたのは政宗だった。シルバーのラインが入る黒いシャツの襟を大きく開けた胸元にさがったネックレスに反射した光が眩しい。佐助は目を細めた。自然と視線が鋭くなる。
「追いつかれるのが怖くて今から牽制?No.1も意外と小心者なんだね。」
咥えた煙草の先が揺れて佐助のスーツの膝に灰が落ちる。それを白い政宗の指先が払い、佐助は不機嫌に眉根を寄せた。
「いや?急に伸びたもんだから裏技でも使ったのかと思ってな。やる気のないやつはそのうち潰れると思ってたが…アンタ意外としぶといな。」
「ああそう。そうやって油断しといてよ、そのうち引き摺り下ろしちゃうから。」
佐助は半分ほどの長さになった煙草を一口吸いつけてから灰皿に押し付け、政宗に向かって吹き上げるように煙を吐き出した。
政宗はなにがあろうとも佐助をヘルプにつけない。佐助がこの店で働くようになってすぐの頃から嫌われているようだったし、高飛車な物言いや尊大な態度が気に入らないので佐助も進んで話しかけるようなことはしないが、たまに話すとこうして人を小馬鹿にした態度を取る。
お互い気に入らない相手なのだ。
「1年近く頑張って無理なんだから諦めたらどうだ?」
「残念ながら諦めらんない理由があんの。たまには追われる恐怖も味わった方がいいんじゃない?」
佐助は放り出してあった給料袋を取り上げてスーツの内ポケットに押し込んで立ち上がる。相手にするのも面倒だとでも言いたげに睫毛を伏せた佐助の緩んだネクタイを政宗が掴んだが、ざわめきの中で気付く者はいない。政宗は掴んだネクタイを引いて佐助の耳元に囁いた。
「アンタがいくら足掻いたって、俺の恐怖になんかなれやしねえんだよ。」
言い終わると同時にネクタイを離した政宗は隻眼に見下した色を刷いて、佐助の頭から爪先までを眺めると吐息だけで笑った。締まったネクタイを緩めた佐助はそれはどーもと答えてその場を後にする。
給料を渡す小十郎の横を抜け、はしゃぐホストの間を縫うように更衣室へ向かう。人口密度の高い更衣室へ入り、自分のロッカーを殴りつけた。その音にざわめいていた更衣室が静まり返る。
無性に腹が立った。佐助が目指す先は小十郎であって政宗ではない。小十郎を超えるための通過点に政宗がいるに過ぎないのに、政宗に出しゃばられたのが気に入らない。お前より俺の方があの男に近いのだと言われた気がした。それが何よりも腹立たしい。殴りつけた拳をロッカーにつけたまま奥歯を噛み締める。ギチギチとこめかみが鳴り、こみ上げる悔しさに目の奥が痛んだ。普段はさばけた雰囲気を纏う佐助の変わりように、周囲は掛ける言葉もなく遠巻きに様子を見るばかりだったが、タイミング悪く入って来た元就だけは部屋の中を眺めて佐助の隣に立つ。
「喧嘩か?」
佐助のロッカーの隣にある自分のロッカーを平然と開けながら元就が問う。佐助が入って来た当時はNo.3だった元就の登場に、その場の空気が弛緩する。
「別に。ちょっと腹立っただけ。」
「あまり新人を虐めてやるな。」
ロッカーから出した財布に給料袋から出した何枚かの札を入れながら元就が小さく笑った。袋に残ったものはそのままスーツの内ポケットに押し込んでいる。
「そろそろ代表がくる。機嫌を直しておかないと面倒だぞ。」
「代表に慰めてもらおうかな。」
「慰めてくれるような人でないことは確かだな。」
「なりさん、それ代表に言いつけちゃうよ?」
「本当の事を言ったまでだ。」
悪びれた様子もなく言った元就が佐助に煙草の箱を差し出す。貴様のであろうと差し出された見慣れた銘柄のそれを手に取り、ありがとうと笑う。テーブルの上に忘れて来たものだった。煙草に火を点ける元就に倣って佐助も中身を一本咥え、差し出されるライターの火に顔を寄せた。
その後すぐにシフトを聞きにきた小十郎にホストが群がる。その様子を遠巻きに見ながら煙草を灰に変えていた元就が面倒になったと言って帰って行った。特にシフト希望があったわけではなかったようだが、彼が来てくれた事で背にのしかかっていたプレッシャーが少し和らぎ、冷静さを取り戻したような気がした。焦るだけでは売り上げは伸びない。
壁に凭れて二本目の煙草に火を点けながら、徐々に減っていくホストを眺める。急ぐ用があるわけでもない佐助はのんびりとけむりを輪にして遊んだ。小十郎は聞いたシフト希望を紙に書き入れているだけで、佐助を視界にいれるわけでもない。あの日から一度も彼の部屋を訪れない佐助のことなど、気にも留めていないようである。彼の左手の包帯は昨日から見えない。掌で口許を覆ったままフィルターを噛んだ。
小十郎に群れていたホストがまばらになり、やがて誰もいなくなる。できれば早く済ませて給料の使い道でも考えたいと言うところだろう。最後のホストが出て行き、ようやく小十郎が佐助を視界に入れた。冷たいコンクリートの壁につけた背中に歓喜の震えが走る。あの眼は、俺の姿を映すためにあるのだ。
「テメェもシフト希望か?」
「もちろん。」
「月曜、でよかったか。」
「うん。」
言いながら、小十郎は紙にそれを書き込むことはしなかった。佐助がここに務めるようになってから毎月のことである。給料日の次の月曜はいつも休む。それ以外に佐助が希望休を出すことはない。
さりとて小十郎もそれが何のための休みであるかを詮索することもない。多かれ少なかれ誰しも話したくないことがある。
「わかった。月曜は休みにしておく。帰っていいぞ。」
紙を裏返し、その上にボールペンを置いた小十郎は目頭を揉んでから煙草を出した。佐助が投げて寄越した安いライターには見向きもせずに火を点ける。ゆっくりと濃い煙を吐いた。
「代表。」
「なんだ。まだ用か?」
「アンタどうやって2000万稼いでたの?」
「俺の場合はうまく太い客にあたってたんだ。飾りボトル入れたり、シャンパンしか入れなかったりな。派手な遊び方する客が多かった。」
「それだけ?」
「なんだ、急に。やる気でも出したのか?」
煙草を灰皿に置いた小十郎の口角が上がる。理由なんてわかってるくせに、と思った。
「どうやったら2000万いくのか、ずっと考えてんの。どうやったらアンタが俺を見てくれるか。アンタに必要とされるか。」
客みたいなことを言う、と小十郎は溜め息を吐いた。灰皿の上で灰になりかけている煙草を摘み上げて一口吸い付ける。
「俺が金で動くような男だと思ってんのか?」
潜めた眉の下で鋭利な視線が佐助に向いたが、佐助の狡猾な視線の上を滑るだけだった。佐助の革靴の底が床のリノリウムを踏んで高い音が響く。テーブルを挟んで向かい合った佐助は、腕を伸ばして灰皿を引き寄せる。
「さあ?でも、アンタだって所詮はホストだからねえ。」
佐助の指先がひどく緩慢な動きで煙草を灰皿に押し付ける。小十郎は試されているような気分になり、うんざりと煙を吐いた。佐助は殴りつけたせいで僅かに歪んだロッカーを力任せに開けてコートを出している。その背中に、今まではなかった拒絶が見えるような気がして、小十郎はこめかみを押さえた。
どう答えれば満足するんだ、この男は。
「お疲れ様でした。」
コートを羽織った佐助は、襟のファーを直して小十郎の横を通り過ぎようとした。咄嗟にその肘を掴む。
「なに?」
「やる気を出すのはいいが、ちゃんと寝ろ。飯を食え。」
もともと骨っぽい肘がコートの上からでもわかるほどにその細さを増していた。佐助はふいと顔を背けて小十郎の手を振り払う。
「寝てるし食ってる。アンタが心配することじゃない。どうでもいいくせに構わないでよ。」
「今日はちゃんと帰って寝るんだな。明日は遅番だろう?」
「構わないでって、言ってんじゃん。」
「じゃあ構われないように努力しろ。俺が言わないとまともな生活も出来ないのはどこのどいつだ?」
俯いた佐助が長い前髪の奥で薄い唇を噛むのが見えた。我ながら最低だな、と小十郎は自嘲に唇を歪め、振り払われた手で燃え尽きそうな煙草を取り上げて一口吸い、それを灰皿に潰した。
どう扱えばいいのかがわからないにしてももう少しやり方があっただろう、と客観的な自分が言った。それもそうかもしれない。でも、わからない。舌の先に言い訳を転がして飲み込む。ひどく息苦しい沈黙だった。家で寝て帰ればいい、と言い出しそうになるのをごまかすようにあたらしい煙草を咥えた小十郎は乱暴にライターを擦った。
「帰る。お疲れ様でした。」
俯いたままの佐助がそう言って部屋を出て行く。今なら引き止めて自分の家に帰らせることが出来る。そう思う頭の反対側で、それでは意味がないとも思う。このまま放っておけば、いずれ佐助は小十郎に追いつくだろう。それだけの資質は持っている男だ。うまく太い客を掴み、今まで通りのそつのない営業を続ければいずれは。
しかし、今のままの佐助では追いつくよりもプレッシャーに潰れるのが先だ。どうにかしてやりたいと思う。心配もしている。それでも、自分が口を出して佐助の意志を揺さぶるようなことになってはならぬ。佐助が小十郎の一挙手一投足、何気ない言葉の一つでダメになることもわかる。だからこそ、今はそっとしておくべきなんだと自分に言い聞かせる。
指先に挟んだまだ長い煙草を消し、小十郎も立ち上がった。握りしめた左手の掌が鈍い痛みに痺れた。
End
もどかしくてはがゆくて、それでも動かないこれが全て。
カウンターで給料袋の封をしている小十郎を横目に空いている場所へと向かう。様々な香水とアルコールの匂いが立ち込めるそこは、有名ホストクラブの落ち着きを失っていた。浅ましい。
佐助はポケットから煙草の箱をテーブルに放り出し、売り上げと客の話でざわめく中で目を閉じた。高く組んだ膝の上で細い指先を揺らす。疲れていると思われたのだろう、誰も佐助に声をかけなかった。
ここ暫くは同伴とアフター続きでろくに眠っていない。目を閉じただけで眠れそうなほどの倦怠感が佐助を襲う。寝てしまうわけにはいかない佐助は重たい目蓋を薄く開いて、テーブルに放り出した煙草の箱を探り、抜き出した一本を咥えた。隣に座っていた下っ端がライターの火を差し出すのを手のひらで遮り、吸うわけじゃないよと再び目蓋を落とした。
今月はいくらまでいけるだろうか。同伴、アフター、2卓の被りは当たり前のこの生活の中で佐助が思うのはそれだけだ。もう過ぎてしまった先月の売り上げやナンバーなどどうでもいい。問題はまだ始まって半月の今月だ。煙草を挟んだ唇から溜め息が漏れた。月に何百万を落としていく客がいるわけでも、指名本数が多いわけでもない。客の懐事情と佐助の体力のバランスを取った結果が今までの売り上げだったのだ。それを増やすには佐助が2人になるか客がもっと払うかのいずれかしかないだろう。フリーの新規客の卓について指名を取ってくる自信も、その客をリピーターとして店に呼び込む自信もある。しかし、彼が求めるところへは、それだけでは到底届かない。今までの二倍の額を売り上げなくてはならないのだ。
無茶苦茶だ、もう。
唇に挟んでいた煙草を取り、溜め息をつきながら煙草を耳に挟む。
「ミーティング始めるぞ。」
カウンターから出て来た小十郎が束になった給料袋と書類をテーブルに無造作に置いてヘルプ椅子に座る。ざわめいていたホールが静かになり、小十郎がゆっくりと口を開いた。
「今月もご苦労さん。先月よりも今月はよく売り上げた奴が多かった。客との揉め事もいくつか聞いてるが、客が切れる前に必ず俺に相談しろ。テメェらのケツ拭ってやるのが俺の仕事だ。そのための代表の肩書きと幹部手当だ。」
ずらりと並ぶホストの顔を眺める小十郎の視線は鋭い。後ろの方で立っている新人の何人かが小さく頭を下げて同意を表すが、テーブルに陣取っているほとんどのホストはもう知っていることだとばかりに小十郎に視線を向けるだけだった。一通りホストの反応を見ていた小十郎の視線が、手元で煙草をいじくりまわしている佐助で止まる。テメェのことだ。舌に乗った言葉は舌打ちをする事で声にせずに飲み込んだ。
「あと、ヘルプで着く時はきちんと仕事をしろ。テーブルの上が汚ねえ。呑んで喋るだけがホストじゃねえぞ。」
まばらに返ってくる返事を聞きながら小十郎は引き寄せた書類を捲った。佐助は相変わらずいじくりまわしていた煙草を箱の中に戻し、また出してはいじくるを繰り返している。一週間ほどで随分と肉の削げた頬に落ちる影が暗い。
「このあと一部のやつらは来週のシフトを聞く。希望がある奴は更衣室に集合。ない奴は解散。二部の奴らは営業準備だ。」
書類から視線を上げた小十郎は胸のポケットからボールペンを出し、書類と共に目の前のテーブルに置くと給料袋の束を引き寄せた。
「今月のNo.1は政宗。売り上げ1800万。」
拍手に押されるように悠然とソファから立ち上がった政宗は分厚い封筒を受け取って書類にサインをする。ボールペンを置いた指先が給料袋の封を開けて中身を改めるのを佐助はぼんやりと眺めた。この店の給料は、売り上げが500万を超えると店との折半になる。そこから1割を厚生費と所得税として引かれたものが給料だ。大方800万が政宗の給料ということになる。それでどんな生活をしているかなど興味もないが自分はどうするだろうかと考えた佐助は、それでも今と変わりはしないだろうなと思う。遊ぶ友人や金がかかる恋人がいるわけではない。たまに客に飯を奢り、最低限の生活に金を払い、母親の病院代を出して残りは全て銀行に預ける。そうして貯まった金は使うことなく通帳の肥やしになるばかりである。
「No.2、元親。1500万。」
うい、と気の抜けた返事をする元親が給料袋を受け取り、書類にサインする間、佐助はあと500万、と口の中で呟いた。拍手の音の中でそれに気付く者はいなかった。小十郎に言われた言葉がこめかみを叩くように頭蓋の内側で響く。No.1と2000万プレイヤーの重みはよくよく理解している。No.1はともかく、2000万を売り上げるなど無茶な話だ。
「No.3佐助。1100万。」
のろのろと立ち上がりながら、佐助はドンピン25本分で元親かと溜め息をつく。毎日一本で間に合うか否かというところである。受け取った封筒は先月よりも分厚いが、喜びはない。無表情にサインして元いた場所に戻った佐助は封を開ける。帯のついた束が4本と、束になった万札が無造作に突っ込まれている。これだけあれば美容院を開業して美容師として生きていけるような気がしたが、小十郎を手に入れるまではそれでさえも佐助の興味を引かない。しかし、あの日、小十郎が佐助に突きつけたのは絶対的な拒絶だったとも思う。お前には無理だ、だから俺はお前には落ちない。そう言われたような気がした。がむしゃらに稼いで無理ではないことを証明したところで小十郎が佐助に落ちることなど万に一つもないということなのだろうが、諦めるわけにもいかない。もう引き返せないところまで来ていることはここしばらくで嫌というほどに思い知らされた。どう転ぶとしても、自分が売り上げを伸ばさないと事態は動かない。
給料を受け取ったホストが次々に消えていくホールがざわめきを取り戻す中で箱の横に置いたままになっていた煙草に火を点ける。大金が入った袋を傍らに放り出すように置いた佐助はぼんやりと煙を吐き出した。キャッチに出て行く者、更衣室へ戻る者、酔ってはしゃぐ者、皆それぞれだが彼らのうちの何人が小十郎を、政宗を越えようとしているだろう。一年以上変わらないNo.1に、誰が成り代わろうと思うだろう。
それでも、成り代わらねばならない。ひどいプレッシャーとわずかに残ったアルコールに酷いめまいがする。
佐助は唇に煙草を挟んだまま天井を仰いで目を閉じた。
「先月、がんばったじゃねえか。」
微かな嘲笑を含んだ声が佐助の頭上に降る。億劫そうに目を開けた佐助の視界にいたのは政宗だった。シルバーのラインが入る黒いシャツの襟を大きく開けた胸元にさがったネックレスに反射した光が眩しい。佐助は目を細めた。自然と視線が鋭くなる。
「追いつかれるのが怖くて今から牽制?No.1も意外と小心者なんだね。」
咥えた煙草の先が揺れて佐助のスーツの膝に灰が落ちる。それを白い政宗の指先が払い、佐助は不機嫌に眉根を寄せた。
「いや?急に伸びたもんだから裏技でも使ったのかと思ってな。やる気のないやつはそのうち潰れると思ってたが…アンタ意外としぶといな。」
「ああそう。そうやって油断しといてよ、そのうち引き摺り下ろしちゃうから。」
佐助は半分ほどの長さになった煙草を一口吸いつけてから灰皿に押し付け、政宗に向かって吹き上げるように煙を吐き出した。
政宗はなにがあろうとも佐助をヘルプにつけない。佐助がこの店で働くようになってすぐの頃から嫌われているようだったし、高飛車な物言いや尊大な態度が気に入らないので佐助も進んで話しかけるようなことはしないが、たまに話すとこうして人を小馬鹿にした態度を取る。
お互い気に入らない相手なのだ。
「1年近く頑張って無理なんだから諦めたらどうだ?」
「残念ながら諦めらんない理由があんの。たまには追われる恐怖も味わった方がいいんじゃない?」
佐助は放り出してあった給料袋を取り上げてスーツの内ポケットに押し込んで立ち上がる。相手にするのも面倒だとでも言いたげに睫毛を伏せた佐助の緩んだネクタイを政宗が掴んだが、ざわめきの中で気付く者はいない。政宗は掴んだネクタイを引いて佐助の耳元に囁いた。
「アンタがいくら足掻いたって、俺の恐怖になんかなれやしねえんだよ。」
言い終わると同時にネクタイを離した政宗は隻眼に見下した色を刷いて、佐助の頭から爪先までを眺めると吐息だけで笑った。締まったネクタイを緩めた佐助はそれはどーもと答えてその場を後にする。
給料を渡す小十郎の横を抜け、はしゃぐホストの間を縫うように更衣室へ向かう。人口密度の高い更衣室へ入り、自分のロッカーを殴りつけた。その音にざわめいていた更衣室が静まり返る。
無性に腹が立った。佐助が目指す先は小十郎であって政宗ではない。小十郎を超えるための通過点に政宗がいるに過ぎないのに、政宗に出しゃばられたのが気に入らない。お前より俺の方があの男に近いのだと言われた気がした。それが何よりも腹立たしい。殴りつけた拳をロッカーにつけたまま奥歯を噛み締める。ギチギチとこめかみが鳴り、こみ上げる悔しさに目の奥が痛んだ。普段はさばけた雰囲気を纏う佐助の変わりように、周囲は掛ける言葉もなく遠巻きに様子を見るばかりだったが、タイミング悪く入って来た元就だけは部屋の中を眺めて佐助の隣に立つ。
「喧嘩か?」
佐助のロッカーの隣にある自分のロッカーを平然と開けながら元就が問う。佐助が入って来た当時はNo.3だった元就の登場に、その場の空気が弛緩する。
「別に。ちょっと腹立っただけ。」
「あまり新人を虐めてやるな。」
ロッカーから出した財布に給料袋から出した何枚かの札を入れながら元就が小さく笑った。袋に残ったものはそのままスーツの内ポケットに押し込んでいる。
「そろそろ代表がくる。機嫌を直しておかないと面倒だぞ。」
「代表に慰めてもらおうかな。」
「慰めてくれるような人でないことは確かだな。」
「なりさん、それ代表に言いつけちゃうよ?」
「本当の事を言ったまでだ。」
悪びれた様子もなく言った元就が佐助に煙草の箱を差し出す。貴様のであろうと差し出された見慣れた銘柄のそれを手に取り、ありがとうと笑う。テーブルの上に忘れて来たものだった。煙草に火を点ける元就に倣って佐助も中身を一本咥え、差し出されるライターの火に顔を寄せた。
その後すぐにシフトを聞きにきた小十郎にホストが群がる。その様子を遠巻きに見ながら煙草を灰に変えていた元就が面倒になったと言って帰って行った。特にシフト希望があったわけではなかったようだが、彼が来てくれた事で背にのしかかっていたプレッシャーが少し和らぎ、冷静さを取り戻したような気がした。焦るだけでは売り上げは伸びない。
壁に凭れて二本目の煙草に火を点けながら、徐々に減っていくホストを眺める。急ぐ用があるわけでもない佐助はのんびりとけむりを輪にして遊んだ。小十郎は聞いたシフト希望を紙に書き入れているだけで、佐助を視界にいれるわけでもない。あの日から一度も彼の部屋を訪れない佐助のことなど、気にも留めていないようである。彼の左手の包帯は昨日から見えない。掌で口許を覆ったままフィルターを噛んだ。
小十郎に群れていたホストがまばらになり、やがて誰もいなくなる。できれば早く済ませて給料の使い道でも考えたいと言うところだろう。最後のホストが出て行き、ようやく小十郎が佐助を視界に入れた。冷たいコンクリートの壁につけた背中に歓喜の震えが走る。あの眼は、俺の姿を映すためにあるのだ。
「テメェもシフト希望か?」
「もちろん。」
「月曜、でよかったか。」
「うん。」
言いながら、小十郎は紙にそれを書き込むことはしなかった。佐助がここに務めるようになってから毎月のことである。給料日の次の月曜はいつも休む。それ以外に佐助が希望休を出すことはない。
さりとて小十郎もそれが何のための休みであるかを詮索することもない。多かれ少なかれ誰しも話したくないことがある。
「わかった。月曜は休みにしておく。帰っていいぞ。」
紙を裏返し、その上にボールペンを置いた小十郎は目頭を揉んでから煙草を出した。佐助が投げて寄越した安いライターには見向きもせずに火を点ける。ゆっくりと濃い煙を吐いた。
「代表。」
「なんだ。まだ用か?」
「アンタどうやって2000万稼いでたの?」
「俺の場合はうまく太い客にあたってたんだ。飾りボトル入れたり、シャンパンしか入れなかったりな。派手な遊び方する客が多かった。」
「それだけ?」
「なんだ、急に。やる気でも出したのか?」
煙草を灰皿に置いた小十郎の口角が上がる。理由なんてわかってるくせに、と思った。
「どうやったら2000万いくのか、ずっと考えてんの。どうやったらアンタが俺を見てくれるか。アンタに必要とされるか。」
客みたいなことを言う、と小十郎は溜め息を吐いた。灰皿の上で灰になりかけている煙草を摘み上げて一口吸い付ける。
「俺が金で動くような男だと思ってんのか?」
潜めた眉の下で鋭利な視線が佐助に向いたが、佐助の狡猾な視線の上を滑るだけだった。佐助の革靴の底が床のリノリウムを踏んで高い音が響く。テーブルを挟んで向かい合った佐助は、腕を伸ばして灰皿を引き寄せる。
「さあ?でも、アンタだって所詮はホストだからねえ。」
佐助の指先がひどく緩慢な動きで煙草を灰皿に押し付ける。小十郎は試されているような気分になり、うんざりと煙を吐いた。佐助は殴りつけたせいで僅かに歪んだロッカーを力任せに開けてコートを出している。その背中に、今まではなかった拒絶が見えるような気がして、小十郎はこめかみを押さえた。
どう答えれば満足するんだ、この男は。
「お疲れ様でした。」
コートを羽織った佐助は、襟のファーを直して小十郎の横を通り過ぎようとした。咄嗟にその肘を掴む。
「なに?」
「やる気を出すのはいいが、ちゃんと寝ろ。飯を食え。」
もともと骨っぽい肘がコートの上からでもわかるほどにその細さを増していた。佐助はふいと顔を背けて小十郎の手を振り払う。
「寝てるし食ってる。アンタが心配することじゃない。どうでもいいくせに構わないでよ。」
「今日はちゃんと帰って寝るんだな。明日は遅番だろう?」
「構わないでって、言ってんじゃん。」
「じゃあ構われないように努力しろ。俺が言わないとまともな生活も出来ないのはどこのどいつだ?」
俯いた佐助が長い前髪の奥で薄い唇を噛むのが見えた。我ながら最低だな、と小十郎は自嘲に唇を歪め、振り払われた手で燃え尽きそうな煙草を取り上げて一口吸い、それを灰皿に潰した。
どう扱えばいいのかがわからないにしてももう少しやり方があっただろう、と客観的な自分が言った。それもそうかもしれない。でも、わからない。舌の先に言い訳を転がして飲み込む。ひどく息苦しい沈黙だった。家で寝て帰ればいい、と言い出しそうになるのをごまかすようにあたらしい煙草を咥えた小十郎は乱暴にライターを擦った。
「帰る。お疲れ様でした。」
俯いたままの佐助がそう言って部屋を出て行く。今なら引き止めて自分の家に帰らせることが出来る。そう思う頭の反対側で、それでは意味がないとも思う。このまま放っておけば、いずれ佐助は小十郎に追いつくだろう。それだけの資質は持っている男だ。うまく太い客を掴み、今まで通りのそつのない営業を続ければいずれは。
しかし、今のままの佐助では追いつくよりもプレッシャーに潰れるのが先だ。どうにかしてやりたいと思う。心配もしている。それでも、自分が口を出して佐助の意志を揺さぶるようなことになってはならぬ。佐助が小十郎の一挙手一投足、何気ない言葉の一つでダメになることもわかる。だからこそ、今はそっとしておくべきなんだと自分に言い聞かせる。
指先に挟んだまだ長い煙草を消し、小十郎も立ち上がった。握りしめた左手の掌が鈍い痛みに痺れた。
End
もどかしくてはがゆくて、それでも動かないこれが全て。
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