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あんまり話をややこしくしたくないのに佐助も小十郎も言う事を聞きませんどうしたらいいですか神様
そしてパソコンさんはいつなおりますか神様
この機会に便乗してらいおんさんにアップグレードが必要ですか神様
そうするとAdobeとかベクターとかもアップグレードですよね神様
それはちょっと無理です神様
金銭的な問題です神様
仲がいいのか悪いのか
小十郎は佐助が好きなのかそうでもないのか
書いている本人もよくわからなくなって参りました
ついたり離れたり時には突き放したりで前に進めない彼らをどうか見捨てないでやってください
ホストクラブのバーテンをやっていた当時、代表とナンバーで妄想していたのがこんな所で役に立つとは思いませんでした
当時はどっちかって言うと高飛車ナンバー×プライドの高い代表という感じでしたがこじゅさすはジャスティスなのでもうまんたい
その設定だとナンバー長曾我部×代表毛利かもしれなかったですオウフ
バーテンと言っても酒を作って出して酔っ払ったホストがトイレでゲロはいてる背中をさするだけの簡単なお仕事でした
拍手はたまに覗いています
レス不要でのありがたいお言葉もしかと受け取らせていただいております
なんとなくまだ続きそうです
軍パロもちびちび進んでますが、そっちはパソコンが治ったら一気に上げたいと思いますので、神様パソコン修理はよ
日曜の街には冷たい雨が降っていた。だぶつくジーンズのウエストを持ち上げる。革靴から覗く足首に濡れた裾が触った。冷たい。
店とは駅を挟んで反対側にあるファッションビルに二人はいた。濡れたビニール傘を引き摺る佐助は、凛と背を伸ばす小十郎の半歩後を追いながら再びジーンズのウエストを掴んだ。面倒がってベルトをおいてきたのは失敗だったと舌打ちして、一回り大きい小十郎の服に格闘する佐助を振り返りもしない広い背中を睨んだ。
あれから小十郎が伝票を整理しているのを眺めながら、小十郎が温めた弁当のハンバーグを箸で細切れにしていた佐助は、小十郎に遊ぶなと叱られて箸を置いた。ボールペンを握る左手には白い包帯がきっちりと巻かれている。
「病院、行った?」
「縫った。5針だ。」
割り箸を取り上げて半分に折り、それをまた一本ずつ半分にする佐助を見もしないで小十郎が答える。箸を正しく4等分に折った佐助がごめん、と呟くと治るからいい、と返す。ボールペンの尻でドリンクを数えていた小十郎が数字を書き込んで手を止めた。
「全治2週間だそうだ。治るまで世話するんだったか?」
「そりゃあもう食事から洗濯からシモの世話まで。」
口がいい?ケツがいい?それとも突っ込まれたい派?と一息に言った佐助に向かって小十郎がボールペンを投げつける。見事に額に当たって床に落ちたそれを拾い上げ、半目で佐助を睨みつける小十郎に返した。再放送のバラエティ番組が空々しい笑い声を響かせる。風呂入ってくる、と立ち上がる小十郎の脹ら脛に佐助の腕が絡みつく。サイズの合わないトレーナーの袖が捲れて白い腕が露わになった。
「頭洗う?体も洗う?ついでにシモの世話?」
「ひとりで入る。テメェは散らかした弁当でも片付けてろ。」
脚に絡み付いたままの佐助を振り解くように脚を前に進めるが、離れない佐助が引き摺られて床の上に体を伸ばす。緩いジーンズのウエストから浮いた腰骨が覗いた。
「せっかく一緒に風呂にはいるチャンスなのにさ。」
「テメェのチャンスなだけで俺には関係ねえ。」
小十郎は文字通り佐助を一蹴してさっさと脱衣所に入って行った。腹筋だけで少し浮かせていた頭を音を立てて床に頭を落とした佐助は本当にいつも通りかよ、とボヤいて体を起こし、小十郎に言われた通りにテーブルの上に散らかした弁当を片付けてソファに沈んだ。腕を伸ばしてテーブルの上に乗った煙草の箱を引き寄せて中身を抜くと、空になった箱を握り潰す。煙草を咥えたまま、テーブルの上にあるライターを掴む。表面に彫られた刻印が蛍光灯の光を反射させて佐助の眸を刺す。目を細めてそれを手のひらの上で弄びながら唇の間に挟んだ煙草の先を揺らした。
時間をかけずに風呂から出てきた小十郎に、デートだから着替えに帰るとだだをこねたが、それなら行く必要がないなと寝る体勢に入られたので、渋々小十郎の服を借りたままで家を出た。小十郎は振り返ることもしないでエスカレーターに向かっている。だらだらと歩いていた歩幅を広めてその背中に追いついた。
「代表、どこいくの?」
「とりあえずテメェの服だ。俺のジーパンの裾がダメになる前に履き替えろ。」
「仕方ないじゃん。俺様スレンダーだから。」
「テメェは痩せすぎなんだ。それに裾の長さと体の細さは関係ねえだろう。」
メンズの売り場でエスカレーターを降りた小十郎が足を止めてようやく佐助を振り返る。先に行けとばかりに顎をしゃくった小十郎の前を通り抜けていつも世話になっている店に足を向ける。ジーンズと適当なTシャツとそれに合わせるシャツかパーカーだなと考えながら店内を物色する。全身同じブランドというのはあまり好きではないが、時間をかけると小十郎が帰ると言い出しかねない。
もう知人と言えるほどに仲良くなってしまった店員をあしらいながら決めた一式を持って試着室へ入る。小十郎はスーツを物色しながら、あいつはここでスーツまで揃えているわけかと納得する。代表になりプレイヤーを上がってから、スーツは消耗品ではなくなった。シャンパンやブランデーのしみをつけることもなければ、歩きすぎて擦り切れることもない。代表になった年に買ったアルマーニのスーツはまだ現役だ。ホストと言うのは意外と泥臭い仕事なのだ。
代表と呼ばれて振り返る。そこには一通り試着したいつもの佐助が出来上がっている。似合う?と問う声にいいんじゃねえのかと適当に返した。その返事に満足したらしい佐助はこれこのまま着ていくからタグ取ってと足元に脱ぎ散らかしてある小十郎のジーンズのポケットから財布を出している。佐助を置いて先に店を出て、店の前で佐助を待つ。暫くすると小十郎の服を入れた紙袋をかかえた佐助が出てきた。いかにもホストという感じのするコートの下から覗くパーカーの金色のロゴが目に痛い。小十郎は佐助から視線をそらした。
「あんまりいい男だから俺のこと直視できない感じ?」
「ホストですって宣伝して歩くような格好だなと思ったんだ。」
「看板に顔写真出てるんだから今更だよ。」
佐助の一歩前を歩きながらそれもそうかと納得する。煙草が吸いたいとわめく声は無視してビルを出る。
雨が降っているというのに、街には色とりどりの傘が犇いて流れていく。人混みを歩き慣れた二人の脚はきちんと一歩の距離を保って百貨店へと向かう。黒のミリタリーコートの裾を翻す小十郎の背中を見ながら、代表はホストと言うよりヤクザだよなと思う。見た目の話だ。黒のチノパンにグレーのシャツを合わせただけのシンプルな格好だが、彼は民衆の目を引くようで、先ほどからチラチラと振り返る者がある。俺のダーリンはいい男だろと吹聴して回りたいが、どうせ他人のふりをされるのがオチなのでそれはしないで足早に人混みを抜けていく小十郎の背中を追って百貨店の中に入った。入り口を左に折れ、迷う素振りもなくカルティエに入っていく小十郎の隣にようやく並ぶ。
「代表ってカルティエ好きなの?」
「いや?」
「ライターでしょ?」
「ああ。」
綺麗にディスプレイされたガラスケースの中を覗き込んで、ボールペンもカルティエじゃんと言う。中に収まる腕時計の値段を見て、買えるかこんなものと半目になりながら口の中で吐き捨てる。ゼロが一個多い。
「ボールペンとライターだけだ。」
早口に言った小十郎は店員に佐助がもらったものと同じデザインのライターを指差してこれをと告げる。
暫くお待ちくださいと丁寧に頭を下げて女性店員が背中を向けるのを見届けると、佐助はニヤニヤと小十郎に擦り寄った。
「お揃いじゃない。」
「強奪していった奴が何言ってやがる。」
「じゃあ返す?」
「もういらねえよ。」
にじり寄ってくる佐助の脇腹を肘で押し退けながら小十郎が放り投げるように言う。それはテメェにやったんだろうが、と鋭い視線だけが佐助に向いた。
「でも同じの買うんじゃん。」
「使い勝手の問題だ。そのライター、ここのガスしか入らねえぞ。」
「それもっと早く言ってよ。」
「もう切れたあとだったか?」
からかうように小十郎が小さく笑う。お待たせいたしましたと店員が戻り、手にした箱の中からライターを取り出した。ガスも2本、と言った小十郎が財布を出す。黒のダンヒルだった。ボールペンとライターだけだと言う言葉は本当のことだったようだ。佐助の記憶が正しければ名刺入れはエルメスだ。こだわりがないらしい。
会計を済ませた小十郎は袋を受け取ってさっさと店を出て行く。佐助は慌ててその後を追った。
「代表、煙草が吸いたい。」
「我慢しろ。店までだ。」
「やだ無理。俺様我慢できない。煙草吸うか代表のしゃぶるかどっちかじゃないと死ぬ。ってかなんで店?」
「…売り上げと伝票を取りにいく。」
濡れたビニール傘を開きながら面倒そうに佐助を一瞥して、小十郎は雨の繁華街へ向かって歩き出す。その背中を追って佐助も歩き出すが、ふとこのまま消えたら彼はどうするのだろうと考える。気付かずに店までいくのか、どこかで引き返すのか、それとも探し回るか。ビニール傘から落ちた雫が紙袋を叩いて落ちた。足を止める。
みるみるうちに小十郎の背中は雑踏に消えた。ひとりで紙袋を抱えたまま立ち尽くす佐助を道行く人が邪魔そうに振り返り、すぐにそこには何もなかったかのように流れていく。
ひとりだ、と佐助は思った。溢れかえる人混みはしかし無関心に行き過ぎる。こんなにも人がいるのに、誰ひとり佐助の存在に目を止めようとはしない。足に根でも生えたように動かなくなり、小十郎を追いかける事も出来ない。このまま、気付かれないまま全てがなかった事になったら。そんなのはいやだ。
靴の裏で地面を擦るようにして踏み出した一歩は、正面から歩いてきた男の肩に止められる。左側を通り過ぎる舌打ちを皮切りにして耳の奥で甲高い音が鳴り始め、街の雑踏が遠ざかった。視界がぼんやりと焦点を失い、色の洪水だけが取り残される。煙草が吸いたい。
おい、と頬を軽く叩かれた。
「いつまでそうしてる。」
「え、…あれ?」
「ガキでもちゃんとついて来るぞ。」
目の前に小十郎が居た。佐助がいなくなった事に気付いて引き返して来たらしい。なんで、と佐助の唇が紡いだが、小十郎は再び歩き出す。佐助の足はまだ動かない。革靴の爪先が水溜りを蹴るだけだ。
3歩進んだ小十郎が振り返る。
「早くしろ。」
佐助は勢いよく足を踏み出し、それを見た小十郎は踵を返して歩き出した。
しばらく歩くと店がある通りに入る。佐助はコートのポケットから出した煙草の箱を振り、飛び出た煙草を咥える。夜は落ち着きのないネオンと猥雑な看板が犇くそこも、昼間は静かなものである。駅前の雑踏が嘘のように人が減った。時折通り過ぎる風俗情報店のキャッチが小十郎に声をかけ、ついでのように佐助に頭を下げる。佐助は黙って火のついていない煙草の先を揺らした。
この街で小十郎は有名人だ。一月で2000万を稼ぐ男という過去の栄光、この街で一番とも言われる売り上げを生み出す屈指のホストクラブの代表だ。有名なのも頷ける。それに加えて小十郎には金や女絡みのえげつない過去もない。だからこそあの店の代表なのだ、という気もする。
しかし、佐助は佐助で街の至るところに顔が貼り出されているのだから、指名手配犯くらいの知名度は得ている。彼はあの店のNo.3だと、この街に棲むほとんどの人間が知っているだろう。
見慣れない雰囲気を纏う道をきちんと一歩の距離を保って歩き、店の裏口にたどり着く。濡れた傘を乱暴に扉の横に立て、小十郎は鍵を開けて中に入った。
「代表、ライター貸してー。」
「カウンターにあるだろ。」
その背中を追いながら佐助が声をあげた。電気を点けながらチラリと佐助を振り返った小十郎は、厨房から洗ってある灰皿を取り上げてカウンターへ向かった。佐助は既にカウンターの電気を点けて雨の匂いがする煙草に火をつけている。輪にした煙を吐き出し、それを歪めながらカウンターから出て小十郎に場所を譲る。カウンターに灰皿を置いた小十郎は手にしていた袋からガスを一本だして佐助に投げた。煙草の先から灰を散らかしながら佐助がそれを受け取る。
「やる。」
「使わないから要らない。」
「使え。ライターが泣く。」
「アンタに追いつくまで使いたくない。」
そう言われてようやくガスではなくライターの話だと気が付く。そう言われてみれば佐助がライターを使っているところを見た事がない。いつも大切そうに小十郎の部屋のテーブルに置いてあるが、火を点けるのは安いコンビニのライターだ。
箱からライターを出し、手元に残ったガスのビニールを破りながら、ガスに手を付けずに煙草を吸っている佐助を眺めた。吸う?と差し出された煙草のフィルターに顔を寄せて一口吸いつけ、すぐに顔を離した。
「たまんないねえ。そこのソファでヤりたいくらい。」
「寝言は寝てから言え。」
「寝てる俺様を襲う作戦?代表ってばけっこう奥手だね。それでもいいよ。俺様そういうのも割と好き。優しくしてくれるとなお好き。」
「息継ぎをしろ。」
新品のライターにガスを入れながらテメェのも出せと告げる。案の定佐助はコートのポケットから同じライターを引き摺り出してカウンターにそっと置いた。
「ガス、入れてやるからちゃんと使え。もったいねえだろうが。」
「やだ。無理。俺には重すぎる。」
「じゃあ返せ。」
「それも無理。アンタに追いついたと思ったら使う。」
「…一生使わねえつもりか。」
咥えた煙草に新しいライターで火を点けながら言った小十郎は、手に馴染む佐助のライターを取り上げてガスを入れる。煙草と唇の隙間で呻くように言った。
「追いつくよ、絶対。」
「俺に抱かれたいなんて言ってるうちは無理だな。」
「なんで!」
「俺は脇目も振らずにここまで来た。これからもそれは変わらねえよ。」
「俺は、どっちも手に入れる。決めたんだ。」
「二兎追う者は何とやらだ。やめておけ。」
佐助は指に煙草を挟んだ手で口許を覆ってフィルターを思い切り噛んだ。ガスを入れ終わった小十郎はライターを佐助の前に置いて俯く佐助の薄色の目を覗き込んだ。
「いいか、この店のNo.1も2000万プレイヤーの栄光もそんなに安くねえ。確かにテメェはよく稼ぐ。だがな、俺を口説きながら客が口説けると思うなよ。俺を口説いてる限りは元親にも勝てねえ。そんな男に口説かれて堕ちてやるほど俺は優しくもねえ。諦めろ。」
「…諦めない。アンタが欲しいから。アンタが望むならどんな事でもしてやる。2000万でアンタがおちるなら俺は2000万売るだけだよ。」
それでもアンタは足りないって言うだろうけどという言葉は飲み込んだ。分かっている。彼のこれは色管理と言うやつだ。まさかホストの世界でそんなものがあるとは思いもしなかったが、小十郎が好きな佐助がここで働いている以上、それはここに存在する。
「No.2になったら、アンタは俺に何してくれる?俺はアンタへの気持ちを賭ける。アンタは何を賭けてくれる?」
「…何も賭けねえよ。これ以上テメェにくれてやるものなんざ持ってねえ。」
「そんなに俺が嫌なら、クビにでもすればいいのに。」
佐助は短くなった吸い殻を灰皿に押し付けて立ち上がる。しっけた静寂にスツールが動く音が大きく響いた。カウンターのうえに置かれたライターと紙袋を攫って佐助は裏口へ向かう。
「服、明日持って来ます。お疲れ様でした。」
絨毯を踏む靴音が遠ざかり、分厚い裏口の扉が閉まる音が充満した水分を揺らした。カウンターに左肘を乗せた小十郎は小さくため息をつき、佐助の残した吸い殻を焼くようにして煙草を消した。
End
あんたを諦めるなんて不可能だ。
店とは駅を挟んで反対側にあるファッションビルに二人はいた。濡れたビニール傘を引き摺る佐助は、凛と背を伸ばす小十郎の半歩後を追いながら再びジーンズのウエストを掴んだ。面倒がってベルトをおいてきたのは失敗だったと舌打ちして、一回り大きい小十郎の服に格闘する佐助を振り返りもしない広い背中を睨んだ。
あれから小十郎が伝票を整理しているのを眺めながら、小十郎が温めた弁当のハンバーグを箸で細切れにしていた佐助は、小十郎に遊ぶなと叱られて箸を置いた。ボールペンを握る左手には白い包帯がきっちりと巻かれている。
「病院、行った?」
「縫った。5針だ。」
割り箸を取り上げて半分に折り、それをまた一本ずつ半分にする佐助を見もしないで小十郎が答える。箸を正しく4等分に折った佐助がごめん、と呟くと治るからいい、と返す。ボールペンの尻でドリンクを数えていた小十郎が数字を書き込んで手を止めた。
「全治2週間だそうだ。治るまで世話するんだったか?」
「そりゃあもう食事から洗濯からシモの世話まで。」
口がいい?ケツがいい?それとも突っ込まれたい派?と一息に言った佐助に向かって小十郎がボールペンを投げつける。見事に額に当たって床に落ちたそれを拾い上げ、半目で佐助を睨みつける小十郎に返した。再放送のバラエティ番組が空々しい笑い声を響かせる。風呂入ってくる、と立ち上がる小十郎の脹ら脛に佐助の腕が絡みつく。サイズの合わないトレーナーの袖が捲れて白い腕が露わになった。
「頭洗う?体も洗う?ついでにシモの世話?」
「ひとりで入る。テメェは散らかした弁当でも片付けてろ。」
脚に絡み付いたままの佐助を振り解くように脚を前に進めるが、離れない佐助が引き摺られて床の上に体を伸ばす。緩いジーンズのウエストから浮いた腰骨が覗いた。
「せっかく一緒に風呂にはいるチャンスなのにさ。」
「テメェのチャンスなだけで俺には関係ねえ。」
小十郎は文字通り佐助を一蹴してさっさと脱衣所に入って行った。腹筋だけで少し浮かせていた頭を音を立てて床に頭を落とした佐助は本当にいつも通りかよ、とボヤいて体を起こし、小十郎に言われた通りにテーブルの上に散らかした弁当を片付けてソファに沈んだ。腕を伸ばしてテーブルの上に乗った煙草の箱を引き寄せて中身を抜くと、空になった箱を握り潰す。煙草を咥えたまま、テーブルの上にあるライターを掴む。表面に彫られた刻印が蛍光灯の光を反射させて佐助の眸を刺す。目を細めてそれを手のひらの上で弄びながら唇の間に挟んだ煙草の先を揺らした。
時間をかけずに風呂から出てきた小十郎に、デートだから着替えに帰るとだだをこねたが、それなら行く必要がないなと寝る体勢に入られたので、渋々小十郎の服を借りたままで家を出た。小十郎は振り返ることもしないでエスカレーターに向かっている。だらだらと歩いていた歩幅を広めてその背中に追いついた。
「代表、どこいくの?」
「とりあえずテメェの服だ。俺のジーパンの裾がダメになる前に履き替えろ。」
「仕方ないじゃん。俺様スレンダーだから。」
「テメェは痩せすぎなんだ。それに裾の長さと体の細さは関係ねえだろう。」
メンズの売り場でエスカレーターを降りた小十郎が足を止めてようやく佐助を振り返る。先に行けとばかりに顎をしゃくった小十郎の前を通り抜けていつも世話になっている店に足を向ける。ジーンズと適当なTシャツとそれに合わせるシャツかパーカーだなと考えながら店内を物色する。全身同じブランドというのはあまり好きではないが、時間をかけると小十郎が帰ると言い出しかねない。
もう知人と言えるほどに仲良くなってしまった店員をあしらいながら決めた一式を持って試着室へ入る。小十郎はスーツを物色しながら、あいつはここでスーツまで揃えているわけかと納得する。代表になりプレイヤーを上がってから、スーツは消耗品ではなくなった。シャンパンやブランデーのしみをつけることもなければ、歩きすぎて擦り切れることもない。代表になった年に買ったアルマーニのスーツはまだ現役だ。ホストと言うのは意外と泥臭い仕事なのだ。
代表と呼ばれて振り返る。そこには一通り試着したいつもの佐助が出来上がっている。似合う?と問う声にいいんじゃねえのかと適当に返した。その返事に満足したらしい佐助はこれこのまま着ていくからタグ取ってと足元に脱ぎ散らかしてある小十郎のジーンズのポケットから財布を出している。佐助を置いて先に店を出て、店の前で佐助を待つ。暫くすると小十郎の服を入れた紙袋をかかえた佐助が出てきた。いかにもホストという感じのするコートの下から覗くパーカーの金色のロゴが目に痛い。小十郎は佐助から視線をそらした。
「あんまりいい男だから俺のこと直視できない感じ?」
「ホストですって宣伝して歩くような格好だなと思ったんだ。」
「看板に顔写真出てるんだから今更だよ。」
佐助の一歩前を歩きながらそれもそうかと納得する。煙草が吸いたいとわめく声は無視してビルを出る。
雨が降っているというのに、街には色とりどりの傘が犇いて流れていく。人混みを歩き慣れた二人の脚はきちんと一歩の距離を保って百貨店へと向かう。黒のミリタリーコートの裾を翻す小十郎の背中を見ながら、代表はホストと言うよりヤクザだよなと思う。見た目の話だ。黒のチノパンにグレーのシャツを合わせただけのシンプルな格好だが、彼は民衆の目を引くようで、先ほどからチラチラと振り返る者がある。俺のダーリンはいい男だろと吹聴して回りたいが、どうせ他人のふりをされるのがオチなのでそれはしないで足早に人混みを抜けていく小十郎の背中を追って百貨店の中に入った。入り口を左に折れ、迷う素振りもなくカルティエに入っていく小十郎の隣にようやく並ぶ。
「代表ってカルティエ好きなの?」
「いや?」
「ライターでしょ?」
「ああ。」
綺麗にディスプレイされたガラスケースの中を覗き込んで、ボールペンもカルティエじゃんと言う。中に収まる腕時計の値段を見て、買えるかこんなものと半目になりながら口の中で吐き捨てる。ゼロが一個多い。
「ボールペンとライターだけだ。」
早口に言った小十郎は店員に佐助がもらったものと同じデザインのライターを指差してこれをと告げる。
暫くお待ちくださいと丁寧に頭を下げて女性店員が背中を向けるのを見届けると、佐助はニヤニヤと小十郎に擦り寄った。
「お揃いじゃない。」
「強奪していった奴が何言ってやがる。」
「じゃあ返す?」
「もういらねえよ。」
にじり寄ってくる佐助の脇腹を肘で押し退けながら小十郎が放り投げるように言う。それはテメェにやったんだろうが、と鋭い視線だけが佐助に向いた。
「でも同じの買うんじゃん。」
「使い勝手の問題だ。そのライター、ここのガスしか入らねえぞ。」
「それもっと早く言ってよ。」
「もう切れたあとだったか?」
からかうように小十郎が小さく笑う。お待たせいたしましたと店員が戻り、手にした箱の中からライターを取り出した。ガスも2本、と言った小十郎が財布を出す。黒のダンヒルだった。ボールペンとライターだけだと言う言葉は本当のことだったようだ。佐助の記憶が正しければ名刺入れはエルメスだ。こだわりがないらしい。
会計を済ませた小十郎は袋を受け取ってさっさと店を出て行く。佐助は慌ててその後を追った。
「代表、煙草が吸いたい。」
「我慢しろ。店までだ。」
「やだ無理。俺様我慢できない。煙草吸うか代表のしゃぶるかどっちかじゃないと死ぬ。ってかなんで店?」
「…売り上げと伝票を取りにいく。」
濡れたビニール傘を開きながら面倒そうに佐助を一瞥して、小十郎は雨の繁華街へ向かって歩き出す。その背中を追って佐助も歩き出すが、ふとこのまま消えたら彼はどうするのだろうと考える。気付かずに店までいくのか、どこかで引き返すのか、それとも探し回るか。ビニール傘から落ちた雫が紙袋を叩いて落ちた。足を止める。
みるみるうちに小十郎の背中は雑踏に消えた。ひとりで紙袋を抱えたまま立ち尽くす佐助を道行く人が邪魔そうに振り返り、すぐにそこには何もなかったかのように流れていく。
ひとりだ、と佐助は思った。溢れかえる人混みはしかし無関心に行き過ぎる。こんなにも人がいるのに、誰ひとり佐助の存在に目を止めようとはしない。足に根でも生えたように動かなくなり、小十郎を追いかける事も出来ない。このまま、気付かれないまま全てがなかった事になったら。そんなのはいやだ。
靴の裏で地面を擦るようにして踏み出した一歩は、正面から歩いてきた男の肩に止められる。左側を通り過ぎる舌打ちを皮切りにして耳の奥で甲高い音が鳴り始め、街の雑踏が遠ざかった。視界がぼんやりと焦点を失い、色の洪水だけが取り残される。煙草が吸いたい。
おい、と頬を軽く叩かれた。
「いつまでそうしてる。」
「え、…あれ?」
「ガキでもちゃんとついて来るぞ。」
目の前に小十郎が居た。佐助がいなくなった事に気付いて引き返して来たらしい。なんで、と佐助の唇が紡いだが、小十郎は再び歩き出す。佐助の足はまだ動かない。革靴の爪先が水溜りを蹴るだけだ。
3歩進んだ小十郎が振り返る。
「早くしろ。」
佐助は勢いよく足を踏み出し、それを見た小十郎は踵を返して歩き出した。
しばらく歩くと店がある通りに入る。佐助はコートのポケットから出した煙草の箱を振り、飛び出た煙草を咥える。夜は落ち着きのないネオンと猥雑な看板が犇くそこも、昼間は静かなものである。駅前の雑踏が嘘のように人が減った。時折通り過ぎる風俗情報店のキャッチが小十郎に声をかけ、ついでのように佐助に頭を下げる。佐助は黙って火のついていない煙草の先を揺らした。
この街で小十郎は有名人だ。一月で2000万を稼ぐ男という過去の栄光、この街で一番とも言われる売り上げを生み出す屈指のホストクラブの代表だ。有名なのも頷ける。それに加えて小十郎には金や女絡みのえげつない過去もない。だからこそあの店の代表なのだ、という気もする。
しかし、佐助は佐助で街の至るところに顔が貼り出されているのだから、指名手配犯くらいの知名度は得ている。彼はあの店のNo.3だと、この街に棲むほとんどの人間が知っているだろう。
見慣れない雰囲気を纏う道をきちんと一歩の距離を保って歩き、店の裏口にたどり着く。濡れた傘を乱暴に扉の横に立て、小十郎は鍵を開けて中に入った。
「代表、ライター貸してー。」
「カウンターにあるだろ。」
その背中を追いながら佐助が声をあげた。電気を点けながらチラリと佐助を振り返った小十郎は、厨房から洗ってある灰皿を取り上げてカウンターへ向かった。佐助は既にカウンターの電気を点けて雨の匂いがする煙草に火をつけている。輪にした煙を吐き出し、それを歪めながらカウンターから出て小十郎に場所を譲る。カウンターに灰皿を置いた小十郎は手にしていた袋からガスを一本だして佐助に投げた。煙草の先から灰を散らかしながら佐助がそれを受け取る。
「やる。」
「使わないから要らない。」
「使え。ライターが泣く。」
「アンタに追いつくまで使いたくない。」
そう言われてようやくガスではなくライターの話だと気が付く。そう言われてみれば佐助がライターを使っているところを見た事がない。いつも大切そうに小十郎の部屋のテーブルに置いてあるが、火を点けるのは安いコンビニのライターだ。
箱からライターを出し、手元に残ったガスのビニールを破りながら、ガスに手を付けずに煙草を吸っている佐助を眺めた。吸う?と差し出された煙草のフィルターに顔を寄せて一口吸いつけ、すぐに顔を離した。
「たまんないねえ。そこのソファでヤりたいくらい。」
「寝言は寝てから言え。」
「寝てる俺様を襲う作戦?代表ってばけっこう奥手だね。それでもいいよ。俺様そういうのも割と好き。優しくしてくれるとなお好き。」
「息継ぎをしろ。」
新品のライターにガスを入れながらテメェのも出せと告げる。案の定佐助はコートのポケットから同じライターを引き摺り出してカウンターにそっと置いた。
「ガス、入れてやるからちゃんと使え。もったいねえだろうが。」
「やだ。無理。俺には重すぎる。」
「じゃあ返せ。」
「それも無理。アンタに追いついたと思ったら使う。」
「…一生使わねえつもりか。」
咥えた煙草に新しいライターで火を点けながら言った小十郎は、手に馴染む佐助のライターを取り上げてガスを入れる。煙草と唇の隙間で呻くように言った。
「追いつくよ、絶対。」
「俺に抱かれたいなんて言ってるうちは無理だな。」
「なんで!」
「俺は脇目も振らずにここまで来た。これからもそれは変わらねえよ。」
「俺は、どっちも手に入れる。決めたんだ。」
「二兎追う者は何とやらだ。やめておけ。」
佐助は指に煙草を挟んだ手で口許を覆ってフィルターを思い切り噛んだ。ガスを入れ終わった小十郎はライターを佐助の前に置いて俯く佐助の薄色の目を覗き込んだ。
「いいか、この店のNo.1も2000万プレイヤーの栄光もそんなに安くねえ。確かにテメェはよく稼ぐ。だがな、俺を口説きながら客が口説けると思うなよ。俺を口説いてる限りは元親にも勝てねえ。そんな男に口説かれて堕ちてやるほど俺は優しくもねえ。諦めろ。」
「…諦めない。アンタが欲しいから。アンタが望むならどんな事でもしてやる。2000万でアンタがおちるなら俺は2000万売るだけだよ。」
それでもアンタは足りないって言うだろうけどという言葉は飲み込んだ。分かっている。彼のこれは色管理と言うやつだ。まさかホストの世界でそんなものがあるとは思いもしなかったが、小十郎が好きな佐助がここで働いている以上、それはここに存在する。
「No.2になったら、アンタは俺に何してくれる?俺はアンタへの気持ちを賭ける。アンタは何を賭けてくれる?」
「…何も賭けねえよ。これ以上テメェにくれてやるものなんざ持ってねえ。」
「そんなに俺が嫌なら、クビにでもすればいいのに。」
佐助は短くなった吸い殻を灰皿に押し付けて立ち上がる。しっけた静寂にスツールが動く音が大きく響いた。カウンターのうえに置かれたライターと紙袋を攫って佐助は裏口へ向かう。
「服、明日持って来ます。お疲れ様でした。」
絨毯を踏む靴音が遠ざかり、分厚い裏口の扉が閉まる音が充満した水分を揺らした。カウンターに左肘を乗せた小十郎は小さくため息をつき、佐助の残した吸い殻を焼くようにして煙草を消した。
End
あんたを諦めるなんて不可能だ。
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