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::11.22
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おはようございます
寒いし眠いしですが、もう一回布団に戻ったら負けだと思います
色んな意味で…
今日もうっかりホストネタを書いてしまったので落としに来ました
書いててもどかしすぎて布団の中でジタバタしました
便宜上綱元先生が出てますが成実先生が出る予定は未定です
ミカジメを集金しにきたヤクザということにしましたが、それ以外に出す人が居なかったとかそんなんじゃあります
今時みかじめはおしぼりとか花代とかなんだろうけど
いや、直接上納の組もあるだろということでさらっと流してくださいさらっと
組の名前を一生懸命考えたんですがネーミングセンスがなさすぎて諦めました
眼鏡スーツのインテリやくざ長曾我部に萌えたので、瀬戸内が書きたいです
続きで読めます
いつもの時間に出勤した小十郎は、カウンターの上に鍵を投げ出し、放り出されたままのシフト表を見る。うえから三番目、サスケと書かれた右側の欄は×が4つ並んでいる。コートを脱いで無造作にそこへ置くと、スーツのポケットから煙草を出した。一緒に引きずり出したライターは誰かが忘れて行ったスナックだかキャバクラだかの名前が入ったプラスチックのライターだ。店の名前が見えないように手のひらの上で裏返し、箱から出した煙草に火を点ける。
カウンターの前だけが明るい店に、煙草の燃える音が小さく響いた。
佐助が小十郎の部屋へ押しかけてきてから4日が経った。最初の一日は熱も高く、仕事を終えて帰宅した小十郎にも気付かないほどだった。ソファで眠っていた小十郎の腹の上に蹲って眠っていたのは二日目の昼だ。熱があるくせに、毛布の一枚もかぶっていなかった。その佐助を叩き起こして、食事をさせたが、皿の中の粥をスプーンで掻き回すだけだった。インフルエンザかもしれないから病院へ行ってこいと告げた小十郎に保険証持ってないんだよね、と笑っていたが、薄色の瞳はぼんやりと焦点を合わせていなかった。小十郎が準備をする間、ソファに寝そべったままテレビのチャンネルを無駄に回し、新聞を巨大な鶴に変える佐助に、ベッドで寝てろ、と怒鳴りつけて家を出た。
昨日はもっと最悪だった。家に帰るとテーブルの上には山のような朝食が準備されていた。家で食事を摂らない小十郎の部屋の冷蔵庫には、ミネラルウォーターと缶ビールくらいしか入っていないはずだった。一体どうしたんだと問うと、暇だったからスーパーへ行ったと平然と返された。小十郎はテーブルの上の皿を無視して寝室へ篭り、着替えもしないで眠った。ベッドは佐助の匂いがして、落ち着かなかった。
そしてさっき目覚めた小十郎は、昨日とは違う料理が並ぶテーブルの上にため息をつき、それだけ元気なら今日から出勤しろと佐助に言い、佐助は俺様このまま代表の愛人になろうかな、などとふざけたことを言った。小十郎は警察に通報するぞと凄んだが、佐助はホントは恋人がいいけど愛人で我慢するよ、と皿の上の卵焼きを摘まんでいた。
どうせ今日も欠勤だ。
小十郎が脱衣所へ入った瞬間にトイレに駆け込む佐助が見えた。大方吐いたのだろう。風呂から出ると、佐助は寝室のベッドで毛布に包まっていた。
手のひらの上で軽いライターを弄ぶ。この間まで使っていたライターは佐助にやった。特に思い入れがあったわけではないが、この世界に入って初めての給料で買ったライターだった。長いこと使っていたせいで、手になじまない軽いライターが気持ち悪い。お揃いだと佐助がはしゃぐかもしれないが、帰りにでも買い直そう。
半分ほど吸った煙草を、カウンターの上に置いたままになっている灰皿に押し付けて店の電気をつけてまわる。厨房からグラスと灰皿を出してテーブルの上に並べる。
うんざりしているが、部屋から追い出せないのは佐助の体調が悪いからだと自分に言い聞かせながら、最後の灰皿を置いた。店の電話が鳴る。
「はい。」
『鬼庭です。』
「表が開いてる、勝手に入ってこい。」
『随分機嫌が悪いんですね。』
「おかげさまでな。」
そう言って小十郎は電話を切り、再び厨房に足を向けると冷蔵庫からコーラとミネラルウォーターを出して、私物を端に寄せたカウンターに置いた。相手はケツ持ちを頼んでいるヤクザの若頭だった。小十郎がこの街で働き出した時は使いっ走りだった男だが、気がつけば自分は代表になり、男は若頭になっている。お互い早い昇進だと思った。
「お邪魔しますね。」
「邪魔するなら帰ってくれ。」
「いただくものさえ頂けばすぐ帰りますって。」
入り口の扉を開けたのは小十郎と同じ年くらいの男だ。実際の年は聞いたことがない。黒のトレンチに濃いグレーのスーツ、黒のシャツの襟ボタンはキラキラと輝いている。見た目だけではヤクザだと言われてもピンと来ない。しかし、短い黒髪の下の切れ長の目が笑うところを小十郎は見たことがなかった。
「本当に機嫌が悪いんですね。」
「ああ、とっとと領収書置いて帰ってくれ。」
小十郎はカウンターの下から小さな金庫を出して分厚い封筒を放り出した。断りもせずにコーラを飲んでいた鬼庭は滑ってきたそれを受け取り、なかから帯の着いた札を出して数え始める。
「不機嫌の原因はなんです?」「おしゃべりなヤクザは坊ちゃんに殺されるんじゃないのか?」
「残念ながらその坊ちゃんが今死にかけてるんで大丈夫でしょう。」
「どこかと揉めたのか?」
小十郎はミネラルウォーターを舐めるように飲んで、煙草に火を付ける。怪訝な視線が札束へ俯く鬼庭の顔を覗き込む。鬼庭は札束を弾きながらいいえ、と平坦な声で答えた。
「風邪なんですよ。熱が高くて唸ってたかと思ったら、今度はトイレとお友達になってます。食べても吐くもんだから、お腹が空いてイライラしちゃって。俺は可愛いと思うんですけど、若いのに八つ当たりで大変ですよ。」
「それでテメエが集金にきたってわけか。」
「いつも来てるのが足折ったんですよ。」
どんな八つ当たりだ、と口の中で煙に混ぜて沈黙を吐き出す。最後の一枚を指で弾いた鬼庭は、確かに、と札をわずかに掲げて封筒に入れてからスーツの内ポケットに落とし、入れ違いに煙草を出した。小十郎が反射的に寄せた火に顔を寄せる。
煙を吐き出して、小十郎の手の中のライターを見つめた。
「前のライター、どうしたんです?」
「やった。」
「誰に?」
「今うちのマンションで坊ちゃんと同じ目にあってる馬鹿野郎。」
「とうとう女ができましたか…てっきり小十郎もお仲間だと思っていたんですけど。」
鬼庭はそうですか、と呟いてカウンターの木目を見つめた。彼の関節が目立つ細い指の先で煙草が燃える。
鬼庭は自分の組の親、つまりヤクザの組長とデキている。いわゆるホモだ。組長とは言っても鬼庭より年下の、まだガキと言った感が否めない若い男だ。鬼庭の急な昇進は、自分を名実ともに傍に置いておきたい成実さんの我儘だ、と鬼庭本人が笑っていた。
一報の小十郎が性別はどうあれ、特定の相手を作らないのは面倒だからだ。昼夜の逆転した生活と、幹部とは言えホストという生業。仕事と恋愛を両立させられる自信など毛頭なかった。それに、恋愛は真似事だけで十分だった。
小十郎は短くなった煙草を消し、新しい灰皿を鬼庭の前に置いて、水を飲んだ。
「残念ながら男だ。」
「あれ?じゃあやっぱりお仲間ってことになるんですかね。」
「別に付き合ってるわけじゃねえ。勝手に懐かれてんだ。」
「でも部屋にあげるんでしょう?」
「勝手に上がってくる。」
そう言って、違うと思った。佐助は一度も鍵を使ったことがない。部屋に上がればいつも我が物顔で小十郎の膝に乗り、テレビのリモコンを握り締め、雑誌を読んでビールを飲んでいる。しかし、部屋に入るかどうかだけは小十郎の許可を待っている。エントランスは勝手に抜けてくるくせに、部屋の鍵だけは小十郎に開けさせる。その距離感がいつも小十郎を躊躇わせる。
黙った小十郎を眺めていた鬼庭が小さく笑った。
「惚れてるんですか?」
「わからねえ。我が物顔で家に居座るし、二言目には抱けとかヤらせろとか愛人にしろとかそんなんだ。煩いし迷惑だ。だけど、居なくても煩い。」
「居なくても?」
「家が静かすぎて落ち着かねえ。」
鬼庭がクスリと笑った。それ、まるで俺じゃないですか、と。
箱から出した煙草を弄んでいた小十郎の指先が止まる。それを見ていた鬼庭は唇に柔らかな笑みを浮かべてカウンターに視線を落とし、短い爪で木目を引っ掻いた。
「最初はめんどくさくて煩くて、どうしようもなく邪魔なんですけどね、それに慣れてくると寂しくなってくるんですよ。それでついつい甘やかして、さらに煩くなるんです。」
この間、先代に甘やかしすぎだって怒られちまいましたよ。
鬼庭は苦く笑って新しい煙草を箱から出した。小十郎が差し出す火を掌で断り、磨かれたデュポンで火を移す。その火を小十郎に差し出した。小十郎は持っていた煙草を咥えて火に翳した。
「相手がその気なんだったら、とっとと抱いてモノにしてしまえばいい。」
「俺はテメエみたいな略奪趣味はねえよ。」
「まるで俺が犯罪者みたいな言い方しますね。」
「犯罪者もヤクザも大差ねえだろ。」
「まさか店子だからできないとか。」
歌うように滑らかな流れで続いた応酬が、小十郎の沈黙で途切れる。カウンターをコツコツと指先で叩いていた鬼庭が顔をあげ、表情の抜け落ちた目で小十郎を見た。半分は当たりだ、と観念した声を絞り出した小十郎に、鬼庭がカウンターへ乗り上げるようにして身を乗り出す。
「え、本当に店子なんですか?」
「ああ。」
「どの子です?」
「よく稼ぐ。先月は一千万に乗った。」
「そりゃうっかり手も出せない。」
煙を吐きながら言う小十郎に、体を元の場所に戻しながら大仰に肩をすくめて見せた鬼庭はスーツのポケットから小さな封筒を出し、中から250万の領収書を出して小十郎の前に押し出した。それを摘まんだ小十郎は出したままの金庫にそれを押し込み、鍵をかけてカウンターの下に戻した。そろそろ店を開ける時間だ。
「コーラご馳走様でした。」
「坊ちゃんにお大事にって言っといてくれ。」
「貴方にも八つ当りの電話をかけるかもしれませんよ?」
「今のはなしだ。」
鬼庭がいい終わるより早く言った小十郎はカウンターに肘をついた左手で両のこめかみを揉んだ。鬼庭は小さく笑って煙草を消し、のんびりと立ち上がってじゃあまた来月、と言って店を出て行った。再び静まり返った店の中で小十郎は水を飲み干す。それができたら苦労はしてない、と消えた鬼庭の残像に呟く。
小十郎の経験則でいくと、佐助のようなタイプは、追われると逃げるのだ。少しでもこちらが佐助に好意を持っているとわかると、途端に興味を失う。どうしても落とせない相手だから好きなだけであって、落ちてしまえばそこで終わる。恋が愛へと変わることはないだろう。
佐助が自ら部屋に踏み込むことをしないのは、確かめているだけなのだ。自分は小十郎の意思でしか動けないのだと。小十郎が許しているようでいて彼には何も許していないのだと。
全力で好意をぶつけてくる佐助の姿勢は、恋人同士であれば嬉しく幸せなものだろう。しかし、現状では押し付けられる恋のポーズなのだ。そこへ、小十郎の意思は組み込まれない。
苛立ちを込めて短くなった煙草を力任せに潰す。途中で折れた煙草が茶色の葉を撒き散らして醜く絶えた。
そのままの姿勢で動かない小十郎の背後で扉が開き、おはようございます、と一番のホストが出勤してくる。今日は眠くとも二部のラストまでここに居よう。そう考えながら手を挙げるだけでそれに応えた。佐助の部屋にいる部屋に帰るなり、坊ちゃんよろしく八つ当りでもしてしまいそうだった。
原因の分からない焦燥が小十郎の胸を焼く。それはチョコレートを食べすぎた時のようにじわじわと小十郎の胸郭を犯して胃に落ちる。明るいカウンターで目を閉じた小十郎は奥歯を軋ませた。
End
確かめる勇気がないのはお互い様だというのに。
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