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::02.02   comment (2)

とりあえず、毎日5時起きの鬼畜プレイが続いて二度寝がくせになりつつあるので辛いです。一日が短い\(^o^)/

そんな短い一日の中でどうやってこじゅさすをくっつけるかしか考えてない辺りがもうダメ人間の証のような気がします。僕はダメ人間\(^o^)/

ホストネタが続いてますが
瀬戸内も書いてますが
やっぱりこじゅさすはジャスティス!!!

続きで終わらせるタイミングを失ったホストパロこじゅさすが読めます。




風邪が治った佐助は、五日目にして小十郎の部屋を追い出された。毎日作った食事は、結局一口たりとも食べては貰えなかった。摘まんだ品々の味を思い出して、俺様って結構料理上手なはずなんだけどな、と思いながら咥えた煙草に火を点ける。
熱が下がっても続いた嘔吐感が治まり、ソファでのんびり新聞を読んでいた佐助は、起きてきた小十郎に、お前は今日は早番だぞ、と言われて玄関に放り出されてしまった。仕方がなく自宅へ帰り、シャワーを浴びたが、風邪を引いて寝るだけの生活をしていたせいで、すっかり昼型の生活リズムが出来上がっていた。やはり、人間は夜寝て朝起きるようにできているのだな、と妙なところで感心したが、出勤時間は待ってくれない。眠たいな、とぼんやりしているうちに家を出る時間だった。仕事は面倒だが、小十郎に叱られるのはもっと面倒だ。
下着姿の女が胸の谷間を突き出して笑う看板の横を抜け、同伴でよく使う焼肉屋の前を通り過ぎる。三軒向こうにも焼肉屋があるが、こっちの方が安く済むのだ。浮いた分はもちろん店で使わせる。チラリと見えた店の奥に派手な銀髪がいた。
元親は同伴ね、と小さくうなずいた佐助に、顔見知りの客引きが、バックレたかと思ってたと、と声を掛ける。風邪だよ風邪、と返して店の前に辿り着く。まだ灯りの入らない看板を避け、店の扉を開ける。おはよーございまーすと気のない挨拶をしながら自分の宣材写真の前を通り過ぎてカウンターに辿り着く。小十郎がレジの中身を数えていた。

「代表、お尻触っていいですか?」
「触って死ぬか、触らずに生き延びるか選べ、3秒やる。」
「代表に抱いてもらうまで死ねないけど、触って死ぬならそれもアリ。」

カウンターに肘をついて、小銭をレジに戻す小十郎の背中に答えると、さっさと準備しろと呆れた声で返された。佐助はまだぐずる鼻をすすって、更衣室へ向かう。タイムカードを押して、コートを脱ぎながら自分のロッカーを開けた。中に雑多に積まれたブランドの箱や袋が崩れて足元に落ちる。落ちた拍子に開いてしまったらしい箱から転がり落ちたのは、小十郎から貰ったのと同じライターだった。それを拾い上げてまたロッカーに押し込むと、扉で押さえるようにしてロッカーを閉めた。
ぐるりと肩を回し、スーツが皺になるのも気にしないで長椅子に仰向けに寝そべった佐助は、スーツのポケットから煙草の箱を出して一本咥える。箱に入っていた100円ライターで火を点け、頭の下に両手を入れて天井を仰ぐ。こうしていれば開店と同時に指名客が来るはずである。さっきめぼしい何人かに「薬を飲んだから酒が飲めない。逃げ卓にしたいから来て欲しい」とメールをしておいた。すでにエースからはオーラスで行くというメールが来ていたし、それ以外の何人かも時間をずらして来るという連絡があった。ドリンクとフードだけではたいした数字にはなりそうにないが、それでも休み明けに客を呼べないという不名誉からは逃れられる。2卓もかぶらせれば上出来だろう。
のんびりと目を閉じていた佐助の耳に扉の開く音が届く。気怠げに向けた視線の先には元就がいた。手には紙袋を持っている。

「なりさんおはよー。」
「早いな。具合はいいのか?」
「よくも悪くもって感じかな。そのでかい紙袋なに?」
「元親がこの間泊まったときに忘れていった。」

長椅子に寝そべったまま横向きに体の向きを直す。長くなった灰が床に落ちたが、佐助も元就もなにも言わなかった。元就は紙袋を元親のロッカーの前に置き、さっさと佐助に背を向けた。

「元親、多分同伴だよ。さっき焼肉屋にいるの見た。あそこの安い食い放題のとこ。」
「そうか…我もこの後同伴だ。元親のロッカーに入れておけばいいか。」

みんな同伴なのか、頑張るね。俺様むりだわ、とひとりでしゃべっている佐助を放置して、元就は元親のロッカーを開けて紙袋を押し込んでいる。その後ろから続々とホストが出勤してくる。開店時間はもう目の前だ。
一気に人口密度が高くなった更衣室を元就と共に出て、カウンターのスツールに腰掛ける。元就はそのまま店を出ていく。小十郎はシフト表にそれぞれの出勤時間を書いているところだった。

「代表、なりさん同伴だって。」
「聞いた。」
「元親も同伴だよ。焼肉屋にいた。」

それも聞いてる、と答えた小十郎のあたまを眺めながら、カウンターに右頬をくっつけて顔を伏せる。つまんねえ、と呟いた佐助の声に小十郎は顔を上げた。

「テメェの予定は?」
「オーラスでサキと8時にサナカと10時にルイ。今日は薬飲んできたからノンアルコール。」
「予定通りに行けばいいがな。」
「バックレはないよ。逃げ卓で呼んでるから。みんな俺様の事大好きだもん。」
「そうか。」
「代表も俺様のこと好きでしょ?愛しちゃってるでしょ?」

当然のように問いかける佐助を小十郎の冷たい視線が舐める。言葉とは裏腹に、佐助は相変わらずカウンターに伏せたままの姿勢で、適当に話している。無理をさせたかもしれない、と思った小十郎は無言のままで佐助の派手な頭をかき回すようにして撫でた。佐助の肩が跳ねる。触れた指先では熱はないようだが、二日ほどずっと吐いていたことを思うとやはり本調子ではないのかもしれない。

「具合、どうなんだ。」
「よくも悪くもだよ。お仕事くらいはできそうだから出勤してんの。」
「そうか。」
「代表、今心配した?ねえ、」
「そうでもねえよ。」

平静を装って返事をし、佐助の頭から手を離して元親と元就の欄に同伴と書き込む。佐助の後ろから出てきたホストに看板着けておいてくれ、と声を掛けてボールペンを置く。
続々とホストがキャッチのために店を出ていった。

「そろそろ店開けるから、お前もそこでだらけるのはやめろ。」
「病み上がりに出勤してるんだから褒めてくれたっていいのに。」

同じ姿勢のままでぶすくれた声を上げた佐助だったが、結局客からの電話で駅まで迎えに出た。戻ってくる佐助の為にキープのボトルを出し、アイスを用意する。カウンターの中に戻って伝票を作ったところで、客を連れた佐助が戻ってきた。
客の荷物を佐助から受け取り、クローゼットにコートを掛ける小十郎の背中に佐助が「同伴つけといてください」と声をかけた。こういうところばかり狡賢くなっていくのはどう言うことだ、と思いながらも伝票とシフト表に同伴の文字を書き足す。ヘルプの為のホストを呼び戻し、佐助の卓へつけたところで店の電話が鳴った。
新規の客が佐助を指名したいが席は空いているかと言う。席は空いているが、生憎佐助は指名が入っている。少し待ってくれと答えて保留にし、佐助をカウンターに呼んだ。

「なんすか?」
「テメェを指名したい新規の客だ。いまから来るらしいけどどうする?」
「サナカ断るから呼んでいいよ。」

俺もそろそろ新規欲しいし、と言って佐助は卓へ戻った。保留を戻し、被りでもよければ席は空いていると答える。電話の相手は今から向かうから30分ほどで着く、と言って電話を切った。有名店となればこのような電話は別段珍しいものではないし、ナンバープレイヤーの宣材写真は雑誌や風俗情報誌にも載せている。それを見た客が最初からそのうちの誰かを指名してくることも珍しくはない。キャッチに出ているホストの中から、今来ている佐助の客と仲がいいホストを呼び戻して、ヘルプ指名を入れさせるように仕向ける。そうしておけば本指名の佐助が長く席を離れても客から苦情が来ることはない。佐助もそれくらいは分かっていたのだろう。ヘルプを入れ替えて5分もすればヘルプ指名を伝票に書き足せと言われた。


その電話から暫くの間に、何組か客が入って店内もにわかに賑やかになる。同伴にでていた元就が戻り、元親が出勤してくるとさほど広くない店内は混み合う。12卓あるうちの10卓が埋まり、空いているのは無理やり作ったような2卓とVIPだけになった。そこかしこで笑い声が上がる中、小十郎は佐助をカウンターに呼んだ。

「次の客来たらVIPに入れるからな。」
「え。新規でVIPとか怖いっす。」
「死角になる卓がない、諦めろ。」

えー!と声を上げた佐助だったが、今来ているサキには本営をかけていることを思い出して諦める。サキは嫉妬深いのだ。新規への接客で妬かれると面倒なことになる。売り上げ競争に持っていければいいが、今日はノンアルコールと宣言している以上それは難しい。
佐助が渋々承諾したところで店の扉が開く。入って来たのは黒く長い髪を緩く巻いた、控えめな感じの女だった。すかさず小十郎が彼女を迎え入れた。ご指名は?と聞くと、案の定先ほどお電話で、と言う返答が返って来た。彼女の視線はずっと佐助を見ている。
佐助、と声を掛けて彼女をVIPに通させる。預かった荷物を一度カウンターに置き、アイスとメニューを持って小十郎もその後を追いかけた。テーブルをセッティングする小十郎の耳元に、佐助が「サキに言ってないんだけど」と囁く。俺が暫く付いててやる、と返してボトルと佐助のモスコミュールのオーダーを取ってVIPを後にする。裏から新しいボトルを出し、佐助のモスコミュールをウォッカ抜きで作る。ただのジンジャエールだ。それを出して、サキの卓へ挨拶に向かう。サキは代表も一杯飲んで行きなよ、と笑った。


小十郎がサキの卓でビールを飲んでいるところへ、佐助のほうへ付けていたヘルプが小走りに寄ってくる。耳元でドン白入ったんすけど、と囁かれて小十郎はサキに一言断って席を立ち、ヘルプを席に戻す。
カウンターで伝票にドンペリと書きながら、ボーイに準備をするように言う。走っていくボーイを見送りながら、アイツはバカなのかとため息をつく。ノンアルコールだと言ったのは客にシャンパンを卸させた佐助本人だ。シャンパンコールで煩くなった店内を眺めながら席についていたあいだの伝票を整理する。一度シャンパンが入ると連鎖的にシャンパンが卸される。今日は一番乗り気でなかったはずの佐助が口火を切った。元親の卓と元就の卓でシャンパンが入り、その後にまた佐助の卓へ卓でシャンパンが入った。ドンペリのピンクだと言いに来た佐助の顔色が悪い。

「顔色が悪いな。」
「薬とシャンパンのダブルパンチ。今日絶対に代表の家に帰る。」
「来るな。それより大丈夫なんだろうな。」
「あれ、俺様の心配してくれるの?代表愛してる。」
「そうじゃない、客の財布の中身だ。」

伝票に落としていた視線を鋭くして小十郎が佐助を見つめる。へらへらと笑っていた佐助は、その視線に真顔になって頷き、テーブルに2本積んでるから大丈夫でしょ、と言ってトイレに歩いていった。
突然来て200万をテーブルに積んで飲むなど尋常ではない。小十郎は眉間に皺を寄せてなかなかトイレから出てこない佐助を待つ。この様子では吐いているのだろう。イライラと左手の中でボールペンを回す。暫くして出てきた佐助の骨っぽい肘をカウンター越しに掴んで何かあったらすぐ呼べ、と囁く。わかってまーす、と手をヒラヒラさせて佐助はVIPへ戻っていった。


店はいつもの週末の賑やかさだった。密やかに談笑する卓があれば、賑やかに盛り上がる卓もある。閉店時間まで一時間を切ったが、佐助は結局3卓をかぶらせたまま行ったり来たりしている。VIPではあれからまたシャンパンが卸され、卓を行き来する度に佐助がトイレに篭る。
小十郎はその度にトイレの方を睨みつけるように眺めてはため息をつく。まだ本調子ではないだろうことは分かっていたのに出勤させた自分と、逃れようのないアルコールがあることを分かっていながら薬を飲んで出勤して来た佐助への怒りが小十郎を急かすように苛立たせる。ボールペンの芯を出したり戻したりして気を紛らわせ、電卓を意味もなく叩いて別のことに集中しようと試みるが、なにしろ3卓もかぶった佐助は20分に1回はカウンターの前を通ってトイレへ行く。その20分をカウントして付け回しをするのは小十郎の仕事なのだからたまらない。
トイレから出てくる度に窶れる佐助の表情を見ると満卓ではあるが早締めしたくなるから困る。
電卓を叩いていた指を止めて大きくため息を吐いた。


カウンターの中から店内のあらゆるところへ視線を流す小十郎の目が届かないところで事態は起きた。
最初は派手にグラスが割れる音だった。直後に甲高い女の叫び声。それが悲鳴でないことはすぐにわかった。一瞬喧噪が静まり、徐々にざわめきを取り戻す。その中を小十郎と別の卓にいた佐助が走る。
VIPの中を覗いた佐助は、小十郎に箒とだけ言ってなぜか怒っているらしい客の隣に座った。それを横目に見た小十郎は裏へまわって箒を取りに行く。どうやらグラスが割れたようだ。箒を片手にホールを横切りながら、心配そうな佐助の指名客たちに大丈夫だと目配せする。
案の定ややこしい客だったようだ。
VIPの扉をノックして少しだけ開け、中を覗くとヒステリックに何事が叫ぶ客が佐助の頬を叩いたところだった。本調子ではない佐助の小さな頭が傾いで、割れたグラスの破片が散るテーブルにぶつかりかけたところでドアを押し開けて左手を伸ばした。テーブルと佐助の頭に挟まれた小十郎の掌に痛みが走る。テーブルの上に血が広がり、どうしようもなく立ち尽くしていただけのヘルプが代表と声を上げた。

「佐助、怪我ないか?」
「いや、俺より代表が…」

一瞬慌てたように頭を上げた佐助が振り返り、小十郎の手と顔を出し交互に見遣るが、どうも焦点が合っていない。飲み合わせが悪い薬を飲んできたようだった。小さく舌打ちした小十郎はヘルプに箒を押し付けて血の滴る手をスーツのポケットに突っ込んでカウンターに戻る。黒のスーツで良かったとぼんやりと思う。カウンターの下に入れてある救急箱の中からガーぜを出して、手のひらに刺さった破片を抜く。そこに佐助が来た。拗ねたように俯いて歩いてくる。

「代表、俺、…」
「具合が悪いなら先に言え。もうテメェの指名卓は全部帰らせろ。」
「でも、」
「いいから帰らせて、テメェも帰れ。あと、薬を飲むなら飲み合わせを考えろ。頭痛薬なんて飲んでくるんじゃねえ。」
「なんで知って、」
「焦点が合ってねえんだよ。」

小十郎は佐助を見ないままで小さく舌打ちして言い、ガーぜを押し付けて止血しただけの手で佐助の伝票分の電卓を叩く。会計を書いた紙を佐助に押し付けて、早く行けと視線で言う。暫くカウンターに突っ伏していた佐助は、背を伸ばしてホールへ戻っていった。すべての卓の会計を回収してきた佐助は、ノロノロとクローゼットから客のコートを出している。小十郎がかぞえる札にガーゼに染みた血が移る。釣りを用意した小十郎は、佐助からコートを受け取って客の元へ行く。
それぞれに頭を下げ、佐助は風邪がぶり返したから帰らせると告げた。三人の客はそれぞれヘルプに付き添われて帰っていった。それを笑顔で送り出した小十郎は更衣室に向かう。
佐助はパイプ椅子に逆向きに座り、椅子の背に顔を伏せていたが、扉の閉まる音に顔を出し上げた。

「すみませんでした。」
「何かあったら呼べと言っただろ。」
「何かあったわけじゃない。」
「具合が悪かったんだろうが。」
「たいしたことない。」

佐助は小十郎を見ないまま、スーツのそでのボタンをいじくりまわしている。小十郎は苛立ち紛れに煙草を出して咥える。火を点けようとして左手の痛みに顔を顰めた。それを横目で見ていた佐助が立ち上がり、小十郎の手からライターをとって火を点け、煙草に火が移ったの見てライターを机に放り出した手で小十郎の左手を取る。ガーゼが血で張り付いているだけのその手を包むようにして握った。

「痛い?」
「そうでもねえよ。」
「俺のせいで、代表に怪我させた。」
「怪我するってわかってて手ェ出したんだ。気にすんな。それより、テメェも帰れ。帰ってちゃんと寝ろ。」

俯く佐助の頭がフラフラと揺れている。昇る煙越しにオレンジ色の頭を眺めていた小十郎はそっと佐助の手を剥がし、タクシー呼んでくると告げて踵を返して更衣室を出る。後ろ手に閉めた扉の向こうで、佐助がロッカーを殴る音が聞こえた。小さくため息を吐いてカウンターに向かう。小十郎の代わりにそこにいたボーイが、手当てしますよと言うのに頷いて手を差し出す。おしぼりで血を拭って、ボーイがひでえと呟く。小十郎の手のひらには深い傷が幾つも刻まれ、真っ赤な肉が見えている。

「病院行った方がいいんじゃないすか?」
「まだ二部もあるだろうが。」
「俺がみてますから、代表は帰って病院行って来てください。」

これ縫わなきゃ無理っすよ、と言いながら新しいガーゼを当てて包帯を巻いていく。咥えていた煙草を潰し、器用に巻かれていく包帯から視線をはずして右腕に嵌めた腕時計を見る。そろそろ一部はラストの時間になる。開放された左手で電卓を引き寄せて、一部が終わってからな、とボーイを見ないまま呟き、電卓を叩いていく。心拍に合わせて傷が疼くが、どうしても処理ができないほどではない。
タクシー一台呼んでくれ、とボーイに伝えて電卓に表示された数字を紙に書き写していく。力を入れると傷が傷んだが、どうしてもできないことはない。短いやりとりの後に受話器を置いたボーイが、すぐ来るそうですと言うのを背中で聞いて頷く。

「佐助を帰らせる。呼んでこい。」
「はい。」

ボーイが更衣室に向かって走っていくのを横目に見て、次の伝票を捲る。元親にラスソンを歌わせ、カウンター以外の照明を落とす。暗闇の向こうから、ボーイに肩を借りた佐助が出てくる。その佐助に手招きすると、ボーイから離れてカウンターに凭れて立った。

「俺もすぐ帰るから、俺の家に帰ってろ。鍵は持ってるな?」

耳元で言うと、佐助はのろのろと頭を上げて焦点の合わない目に困惑色を浮かべた。至近距離で見る佐助の薄色の眸が叱られた犬のように揺れる。部屋の中で待ってろよ、と念を押すように言って、佐助に行けと右手で示す。再び俯いた佐助は、困ったように目尻を下げたが、ボーイに半ば引き摺られるようにして店を出て行った。
すぐに戻って来たボーイに用意した紙を押し付け、照明を明るくした小十郎は売り上げを計算する。反射的に見たままの数字を叩き、売り上げを計算する脳の片隅に自分の手を取って俯いた佐助のつむじを思い出す。
佐助が自分を好きなことはわかっている。それに応えないのは自分の勝手だと言うことも理解している。佐助が薬を飲んで来ていることを知りながら、シャンパンがでる可能性を考えずに新規を入れた。様子がおかしい事に気付きながらも止めなかった。結果がこれだ。かろうじて佐助に怪我をさせるという最悪の事態は免れたが、それはすべて代表としての自分の落ち度だ。
何より、佐助を傷付けた。
ギリギリと握り締めた左手の包帯に血が滲む。会計を回収してきたボーイが、やっぱ病院に、と呟く。小十郎はそれに首を横に振るだけで応えた。受け取った現金を数えて釣りをボーイに渡す。さっきの出来事など忘れてしまったような客がホストに付き添われてカウンターの前を抜け、店の外に吐き出されていく。作った笑顔で彼女等を送り出し、人がいなくなった店の中を眺める。ボーイが慌ただしくテーブルの上を片付ける背中を見て、売り上げだけを袋に選り分ける。その袋をカウンター下の金庫に放り込んだ小十郎は、厨房へ向かっていくボーイを呼び止め、帰ることを告げる。ボーイはほっとした顔を見せた。

「2部の売り上げは触らなくていい。俺が明日やっておく。掃除だけきっちりやっとけ。シフト表は遅刻と欠勤だけ書いておけばいい。」
「わかりました。代表、ちゃんと病院行ってくださいよ。」
「早く起きれたらな。」
「今から救急で行ってくださいってば。」

めんどくせえと返し、苦笑するボーイに背を向けてコートを羽織り、一部の伝票と書類を入れたアタッシュケースを持って店を出る。客を送り終えて店に戻るホストたちに手を挙げて応えながら大通りでタクシーを拾った。朝方帰るような倦怠感に襲われながらシートに体を沈める。じわじわと痛む左手の包帯はすでに血で汚れている。家には絆創膏の一枚もないことを思い出して、自宅近くのコンビニでタクシーを停めた。しばらく待っていてくれと告げてコンビニで弁当を二つとガーゼと包帯を買う。便利な世の中に感謝しつつタクシーに戻る。先に帰っているはずの佐助はきちんと部屋の中で待っているだろうか。
タクシーを降りてエントランスを抜ける。狭いエレベーターの中に暖めた弁当の匂いが充満するのを感じながら、エレベーターを降り、自宅の鍵を出して部屋の扉の前に蹲るオレンジ色の頭を見つけた。闘い疲れたボクサーのように脚を投げ出して扉に凭れて座っている。その左側にコンビニの袋が見えた。

「入って待ってろって言っただろ。」
「代表、俺」
「近所迷惑だ、さっさと入れ。」

扉を開けて、コンビニの袋を握り締めたままの佐助を引き摺り立たせて玄関に押し込んだ。座り込んでのろのろと靴を脱ぐ佐助を置いて電気を点けながら居間へ向かう。悪かった、と抱き締めたら佐助はどんな顔をするのだろうか。
テーブルの上に弁当とアタッシュケースを置いてソファに座る。血に濡れた包帯がソファの合皮を擦ったが、気にしないで目を閉じる。ズルズルと足を引き摺る音を立てて居間に入ってきた佐助は、テーブルの上にコンビニの袋を放り出し、もう定位置となっている小十郎の膝の上に座る。佐助が投げた袋の中から新品の包帯が転がって床に落ちた。投げ出した小十郎の左手を取って包帯を剥がしていく。何してる、と問う小十郎には応えずに、包帯を床に落とした佐助はガーゼを取る。

「痛くないわけねえじゃん。まだ血が出てるし、ガラス刺さったのに、痛くないわけ…」

佐助の声が震えを伴って掠れる。小十郎の掌に暖かい雫が落ちて傷をピリピリと痛ませる。自由な右手で佐助の頭を叩くように撫で、痛くねえよ、と呟く。

「弁当食えるか?」
「いらない。アンタがいい。」
「おれは食いもんじゃねえ。」
「弁当食うなら俺がアーンってしてあげるし、風呂入るなら俺が洗ってあげる。アンタができないこと俺が全部やってあげる。」
「全部できるからテメェは大人しく寝てろ。」

小十郎の掌から溢れた血が佐助のグレーのスーツの膝を汚した。汚れたぞ、と声をかけてテーブルの上のティッシュを取って掌に被せる。アンタのものなら血でもゲロでもいいよ、とつぶやいた佐助は、ティッシュて小十郎の掌の血を拭って、腰から振り返って机の上に散らばったガーゼの袋を取り上げて歯で開けると、中身を小十郎の手のひらに乗せた。そのまま小十郎の膝から降りて転がり落ちた包帯を取ると、再び小十郎の膝の上に座る。器用に巻かれていく包帯を見つめていた小十郎が、意外だなと呟くと、まだ焦点の合わない佐助の目が何が?と問うように小十郎を見上げた。

「もっと不器用だと思ってた。」
「元美容師だから、俺様。手先は器用よ。」

テープで包帯を止めた佐助が小十郎のネクタイを解いてワイシャツのボタンを開ける。剥き出しになった鎖骨に唇を当て、ごめんと呟く佐助の後ろ髪を梳く。

「テメェに怪我がなくて良かった。」
「俺は別に…」
「そんなことになってたらあの女も俺も許せそうにない。」
「なんで代表が」
「テメェの具合が悪いことも、薬飲んでることもわかってて止めなかった。」
「新規でシャンパンはないと思ってた俺の落ち度でもあるし。」
「テメェに知らせないで断らなかった俺の落ち度だ。」

悪かった、と呟いて佐助の細い背中を抱き寄せる。腕の中で佐助が息を詰めた。時計の音だけが響く部屋の中で、湿度の高い呼吸だけが互いの体に触れる。鼻先を擽る甘い匂いは佐助の香水か、客のものなのか。抱き寄せる腕を緩めて、胸元に蹲るオレンジ色の頭を上げさせる。

「キスしてやるからしばらく大人しく寝ててくれ。」

え、と聞き返そうとした声は小十郎の厚い唇に呑み込まれた。壊れ物に触れるように啄んだ唇が離れ、後頭部を押さえられて胸に顔を押し付けられる。忘れろよ、と頭上に降る声に、絶対忘れてやらない、と返して小十郎の背中に腕を回した。

End

今日は記念日!
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02.03     じゅん
やっぱり代表の理性割ともろかったです\(^o^)/気付いたらこんなことになってました。笑
もう見てるこっちがじれったくて足バタバタもんですよねこいつら…お前ら両想いだと何度いえばあうあー\(^o^)/ってなります書いててぶん殴りたいじれったさですもう…
いえいえ!いつもコメントいただけてこちらも味をしめゲフンゲフン
いつもありがとうございます!!
02.03     壱。
チュー記念日きたあああー!!
ありがとうございます(拝)代表の理性の一角崩れたり(クワッ)ですね!!
正気に返った佐助がどん底まで落ち込みそうですが、どうなるのかwktkで待機ですヽ(゚∀゚*)/
味をしめてコメント投下する私をどうかお許しください(ノДヽ*)
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