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::06.27   comment (0)


死にます
瀬戸内です
一応現代






拝啓 長曾我部元親殿

そなたに再び自分から何かをすることがあるなどと思いもしなかった。
そなたと別れてから、我はなんの代わり映えもせぬ日々を送っておる。
そなたはつまらぬとふてくされそうだが、我にとって不変は心地のいいものだ。特に不自由はしておらぬ。
これから先もこのように平々凡々と生きてゆくが我には似合いよ。
時期がくれば昇進し、時期がくれば結婚し、そして時期がくれば死ぬのであろう。それが幸せと言うものかと問われればなかなか返答には困るが、不幸ではないと答えるであろう。
どうして我らの間にあのようなことが起こったのか、我には未だに解せぬ。
そなたのような破天荒な男が、我の様な者を、しかも男である我を気に入ったのはただの暇つぶしの様なものだったのだろうかとも思う。
我も、なぜそなたにあれほど執着したのか、未だによくわからぬ。
しかし、あの頃は幸せであったとだけは伝えておこうと思って筆を取った。
我と連絡を取らぬ様になってから、そなたに何があったのか、我には想像もできない。いや、想像などで事実を埋めることはできぬと思うておる。だから、考えることもしない。
しかし、そなたが突然死にたくなった理由を考えている。
いつだったか、我に死ぬなと言うたそなたが、なぜこうも唐突に自らの命を絶つに至ったのかが我にはわからぬのだ。
わかったところで、そなたが戻るわけではないこともわかっているし、戻ったところでもう会うこともないであろう。
ただ、元親が苦しんだのかと思うと胸のあたりがぐずぐずと痛むのだ。我を際限のない苦しみから掬い上げたのは他でもない元親だ。そんなそなたを苦しみからすくいあげることはおろか、手を差し伸べることもできなかったのかと思うと、目の前が暗くなる。
いっそ死んで詫びるべきかとも思ったが、死ぬなといったのは他でもない貴様ぞ。死んだところで怒られるだけであろう。
我はこれからも生きることにする。たいして楽しくもないが、不自由はないこの世界で。
だから、もし、我が天寿を全うして、そなたの元へ逝ったとき、どうかもう一度、名を呼んでくれないだろうか。
まだ時間はある。ゆっくり考えるが良い。

我はどうやらまだ、元親、そなたを好いておるようだ。
いつか、また会えるだろうか。


毛利 元就



真っ白の封筒に宛名を書こうとして、元就は手を止めた。
どうせ何を書こうとも何を残そうとも、全ては無に帰すのだ。
届きもしない手紙を書いて、自分は何がしたかったと言うのだろう。
白いテーブルの上に黒いペンを置く。目に痛い。
認識するより早く黒が滲んだ。
開けたままの眸から透明の液体が零れる。微かに認識できる封筒を掴んだ。
几帳面に保存されていたそれに、取り返しのつかない皺が寄る。
閉じた目蓋から手の甲に落下した雫の熱さに呻く。

「もとちか」

さよならが、リフレインする。


End

何も言わせてくれないなんてずるい。
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